遠くにいる私たちにできること——熊本の地震から考える

介護の知識

熊本で大きな地震が起きました。震度7。10年余り前にも同じ土地を襲った揺れです。

私は熊本にいません。現地の状況を語れる立場でもありません。ただ、テレビやネットで流れてくる映像を見ながら、何かできることはないかと考えて、わずかですが寄付をしました。金額を書くのはためらわれるくらいの額です。それでも、何もしないよりはと思って手を動かしました。

この記事は、同じように「何かしたいけれど、何をすればいいのか」と思っている方に向けて書いています。

離れた場所から、できること

まず、お金を届けること。これがいちばん確実です。

現地では今、必要なものが刻々と変わっています。何が足りないかを判断できるのは現地の人だけです。だからこそ、使い道を委ねられるお金がいちばん役に立ちます。窓口は、熊本県や被災自治体が開設している義援金の口座、日本赤十字社、共同募金会など、公的な窓口を選ぶのが安心です。県の公式サイトに口座情報が掲載されています。

ここで知っておきたいのが、義援金と支援金の違いです。私も今回、恥ずかしながら初めて意識しました。

義援金は、被災された方に直接分配されるお金です。集められたあと配分委員会で協議され、被害の程度に応じて現金として届けられます。生活の立て直しに使われる一方、手続きを経るため、手元に届くまでには時間がかかります。

支援金は、救援や復旧の活動をしている団体に渡されるお金です。炊き出し、物資の輸送、医療や福祉の支援——現場で動いている人たちの活動費になります。こちらはすぐに使われるのが特徴です。

どちらが良いという話ではありません。「被災された方の手元に届けたい」なら義援金、「今まさに動いている人たちを支えたい」なら支援金。目的で選べば十分です。

もうひとつ、ふるさと納税という方法もあります。返礼品なしで被災自治体に寄付できる仕組みが各サイトに用意されていて、手数料を負担してくれる場合もあります。

そして——これは今日から誰にでもできることですが、買い物のときに九州産を選ぶという支援があります。

災害のあとに現地を苦しめるのは、被害そのものだけではありません。「あの地域のものは大丈夫だろうか」という風評や、経済活動が止まることによる打撃です。スーパーで野菜を選ぶとき、通販で食品を買うとき、九州のものを手に取る。それだけで、現地の生産者の商売が続きます。

寄付は一度きりになりがちですが、買い物は毎日あります。長く続けられる支援として、これは大きいと思っています。

やらないほうがいいこと

善意が、かえって負担になることもあります。

個人が現地に物資を送るのは、原則として控えたほうがよいとされています。仕分けや保管の手間が現地の人手を奪い、届いても必要なものと合わないことが多いからです。物資は行政や支援団体を通じてまとめて届くほうが、はるかに効率的です。

ボランティアも同じで、受け入れ体制が整う前に個人で入るのは避けるべきです。災害ボランティアセンターが立ち上がり、募集が始まってから、正式なルートで参加する。それが結果的にいちばん役に立ちます。

気持ちが急くときほど、「現地が今、何を求めているか」に合わせることが大切なのだと思います。

ライフラインは、いつ戻るのか

ここからは、自分の備えの話です。

内閣府が示している大規模地震時の復旧目標は、電気が約6日、上水道が約30日、都市ガスが約55日とされています。復旧の順番は電気・水道・ガスの順で、これは阪神淡路大震災の頃から変わっていません。電気は送電線が1本つながれば広い範囲に供給できる一方、ガスは1軒ずつ安全を確認する必要があるためです。

ただ、これはあくまで目標です。2024年の能登半島地震では、一部の地域で断水が3か月以上続きました

つまり——いちばん長く困るのは「水」だということです。飲み水はもちろん、トイレ、体を拭く、食器を洗う。停電に備えて電池やモバイルバッテリーを用意する方は多いのですが、水の備蓄はつい後回しになりがちです。私自身、見直さなければと思っているところです。

その間、みんなどうやって過ごしているのか

電気が6日、水道が30日。その間、被災した方々はどうやって生活しているのでしょうか。

避難所や親戚宅で過ごす方、自宅に留まる方、そして車の中で過ごす方がいます。特に夏場は、エアコンが使える車は貴重な避難場所になります。プライバシーが保て、ペットがいても気兼ねがいらない。車中泊を選ぶ方が多いのには理由があります。

ただ、そこで問題になるのがガソリンです。

大きな災害が起きると、給油を求める人がガソリンスタンドに殺到します。道路が渋滞し、供給も追いつかず、入れたくても入れられない状況が生まれます。過去の災害では、スタンドに並ぶ列が緊急車両の通行を妨げる事態まで起きました。

では、どうすればいいか。石油業界や自治体が呼びかけているのが「満タン&灯油プラス1缶運動」という考え方です。

要は、燃料計が半分になったら満タンにしておくということ。ガソリンは食料や水のように買い置きできませんから、車のタンクそのものを備蓄タンクとして使うという発想です。冬なら灯油を1缶多めに買っておく。

私も「満タンにすると重くなって燃費が落ちるのでは」と思っていました。実際、多少は影響します。でも——いざというときに動けないことのほうが、はるかに大きな損失です。半分を切ったら入れる。それくらいの意識でちょうどいいのだと思います。

家庭で、今日できること

大がかりな備蓄より先に、やっておきたいことがあります。

ひとつは家具の固定です。地震で亡くなる原因の多くは、建物や家具の倒壊です。特に寝室のタンスや本棚は、寝ている間に倒れてきたら逃げようがありません。数千円の器具で防げることが、命を分けます。

ふたつめは薬の情報を持ち出せるようにしておくこと。お薬手帳の写真をスマホに撮っておくだけで十分です。避難先で「何を飲んでいるか分からない」という事態を避けられます。高齢のご家族がいるなら、その分も撮っておいてください。

そしてもうひとつ、ぜひ知っておいてほしい仕組みがあります。「救急医療情報キット」です。

飲んでいる薬、既往歴、かかりつけ医、緊急連絡先、血液型——こうした情報を記入した用紙を専用の筒に入れ、冷蔵庫に保管しておくという取り組みです。救急隊は「冷蔵庫を見れば情報がある」と分かっているので、本人が話せない状態でも適切な処置と搬送ができます。

なぜ冷蔵庫かというと、どの家にも必ずあり、場所が決まっているからです。よく考えられた仕組みだと思います。

これは多くの市区町村が無料で配布しています。対象は自治体によりますが、65歳以上の一人暮らしの方、高齢者のみの世帯、障害者手帳をお持ちの方などが一般的です。実施例としては東京都墨田区調布市大阪府吹田市などがあります。「お住まいの市区町村名+救急医療情報キット」で検索してみてください。実施していれば、高齢福祉課や地域包括支援センターで受け取れます。

キットの配布がない地域でも、同じことは自分で用意できます。紙に情報を書いて、お薬手帳のコピーと一緒に袋に入れ、冷蔵庫に貼っておく。それだけで十分に役立ちます。ケアマネとして、これは本当におすすめしたい備えです。

三つめは連絡手段を決めておくこと。「災害が起きたら、まずどこに集まるか」「電話がつながらないときはどうするか」。一度話しておくだけで、いざというときの不安がまったく違います。

そして、離れて暮らす高齢の親がいる方は、その地域の避難所がどこかを今のうちに調べておいてください。本人が把握していないことは珍しくありません。

あわせて携帯トイレも忘れないでください。断水で最初に困るのがトイレです。最低3日分、できれば1週間分あると安心だとされています。

何をどれだけ備えるか、迷ったら

「防災グッズ」で検索すると、たくさんの商品が出てきます。何を買えばいいのか迷いますよね。

そんなときは、公的機関がまとめている備蓄リストを見るのが確実です。売りたい商品に寄った情報ではなく、必要なものが必要な量で示されています。

  • 内閣府 防災情報のページ「災害に対する備え」——水は1人1日3リットル×最低3日分、など具体的な目安が示されています
  • 東京消防庁や各自治体の防災ページ——地域の実情に合わせた情報が載っています
  • お住まいの市区町村の防災ハザードマップ——避難所の場所と、自宅の危険度が分かります

一度にすべて揃える必要はありません。買い物のついでに、水を1箱多く買う。それだけでも備蓄は進みます。普段使うものを少し多めに買って、古いものから使っていく「ローリングストック」という方法なら、無理なく続けられます。

できることを、できる範囲で

大きな災害が起きると、無力感に襲われます。自分にできることなど何もないように思えてきます。

でも、寄付は千円からできます。買い物で九州産を選ぶのは、今日からできます。家具を固定するのは、週末にできます。お薬手帳を撮るのは、5分でできます。

小さなことを、できる範囲で。それを続けている人が増えれば、確実に力になります。

避難生活が長くなると、その環境そのものが命に関わることがあります。そのことは災害関連死の記事に、介護施設の備えについてはBCPの記事に分けて書きました。

被災された方々に、心よりお見舞い申し上げます。一日も早く、穏やかな日常が戻りますように。

※義援金の受付窓口や支援の方法は、熊本県や各自治体の公式サイト、日本赤十字社などでご確認ください。状況は日々変わりますので、最新の情報をもとにご判断ください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました