名前を消しても、その人だとわかる——介護職がAIに入れてはいけない情報

AI・テクノロジー

AIの進化は、本当に日進月歩です。少し前まで「すごいらしい」と言われていたものが、今では毎日の仕事の道具になりつつあります。

ケアプランの文章を整える。会議録の下書きを作る。制度を調べる。一度使うと、もう手放せないと感じる方も多いのではないでしょうか。

だからこそ、気をつけなければいけないことがあります。他人の情報の扱いです。

AIは、ケアマネの仕事を確実に楽にします

先に言っておくと、私はAIを使うことに賛成です。

国も同じ方向を向いています。厚生労働省が2025年4月に公表した「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方に関する中間とりまとめ」では、ケアプランやサービス担当者会議の議事録の原案を生成AIで作り、業務を効率化することが書かれています。

AIをケアマネジメントにどう活かすかは、こちらの記事で書きました。
生成AI時代のケアマネジメント——AIに「自分ではない視点」を持たせて、一人で地域ケア会議をする

問題は「使うかどうか」ではありません。「何を入れるか」です。

現場の8割は、ルールのないまま使っています

2026年8月に行われた現役ケアマネ106人への調査では、AIツールを業務に使っている人が85.8%でした。毎日使っている人は半数を超えます。使い道として挙がったのは、ケアプランの作成や会議録の下書きです。

一方、福祉の職場で働く184人への調査(2025年末、障害福祉の職場が中心)では、こんな結果が出ています。

  • 職場にAIの利用ルールがあるのは19.8%だけ
  • 無料版のAIを個人で使っている人が44.4%
  • 利用者の記録や計画書の作成に使っている人が48.2%
  • 上司に報告・相談している人は41.4%

ルールがないまま、個人の無料アカウントで、利用者の記録を作っている。介護の現場でも、同じことが起きていると思います。

人ごとではありません。私の事業所にも、まだAIのルールはありません。この記事を書きながら、作らなければいけないと強く感じています。

名前を消しても、その人だとわかります

「名前と住所は消しているから大丈夫」。そう考えている方は多いと思います。ですが、それでは足りません。

たとえば、こんな文章です(架空の人物です)。

◯◯町に住む92歳の男性。元小学校の校長先生。奥さんと二人暮らしで、週3回、人工透析に通っている。

名前も住所もありません。でも、小さな町ならこれで一人に絞れてしまいます。地域の人が読めば、誰のことかすぐにわかるでしょう。

国の考え方もはっきりしています。個人情報保護委員会は、氏名などを消した情報でも、ほかの情報と照らし合わせて誰なのか特定できるなら、個人情報にあたるとしています。

しかも介護の情報は、ほとんどが「要配慮個人情報」です。病歴や心身の障害など、知られると差別や偏見につながるおそれがあるため、法律で特に慎重な扱いが求められている情報です。

大事なのは、名前を消すことより、組み合わせを崩すことです。「92歳・元校長・透析」を「90代男性・慢性疾患で通院中」にするだけで、特定される可能性はぐっと下がります。

ケアマネには、辞めたあとも続く守秘義務があります

介護保険法には、ケアマネジャーの秘密保持義務が定められています(第69条の37)。

  • 正当な理由なく、業務で知った人の秘密を漏らしてはならない
  • ケアマネでなくなったあとも同じ
  • 違反すると、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金

事業所にも、運営基準で「職員が秘密を漏らさないよう必要な措置を講じる」ことが義務づけられています。AIのルールを作ることは、まさにこの「措置」です。

AIサービスそのものにも注意が必要です。個人情報保護委員会は2023年に、本人の同意なく個人データをAIに入力し、それがAIの学習などに使われると、法律違反になるおそれがあると注意を呼びかけています。

ChatGPTなどの無料版や個人向けの有料版は、初期設定のままだと、入力した内容がAIの改善に使われることがあります。また、多くのサービスは海外のサーバーでデータを処理しています。設定で学習を止めることはできますが、それで個人のアカウントに利用者の情報を入れてよくなるわけではありません。

入れていい情報、入れてはいけない情報

一般的な生成AI(ChatGPTやGeminiなど)を使う場合の目安です。

入れていいもの

  • 制度や加算の調べもの(答えは必ず公式資料で確かめる)
  • 研修資料や文章の骨組み
  • 自分で書いた文章の言い回しの調整(利用者の情報を含まないもの)
  • 「80代・独居・認知症の方への声かけの工夫」のような、誰のことでもない一般的な相談

入れてはいけないもの

  • 氏名、住所、生年月日、電話番号、被保険者番号
  • 顔写真、面談の録音
  • アセスメントや支援経過の記録そのもの(コピーして貼り付けない)
  • 地域・年齢・職歴・家族構成・病名などの組み合わせで、誰のことかわかる内容
  • 家族の事情や、ほかの事業所とのやりとりの中身

迷ったら、「この文章を、その利用者さんの近所の人が読んだら、誰のことかわかるか」と考えてみてください。わかるなら、入れてはいけません。

使うなら、事業所の介護ソフトのAIを

では、利用者の情報を使ってケアプランや記録を作りたいときはどうするか。ふだん使っている介護ソフトのAI機能を使うのが、いちばん現実的だと思います。

最近は大手の介護ソフトが、AIでのケアプラン作成の支援、音声での記録、会議録の作成といった機能を出しています。

介護ソフトのほうがよい理由は、「介護向けだから安全」だからではありません。その会社には、もともと利用者の情報を預けていて、事業所として契約を結び、情報の管理について約束を交わしているからです。個人の無料アカウントとは、そこが決定的に違います。

ただし、介護ソフトのAIでも、確認しておきたいことがあります。

  • 入力した情報が、AIの学習に使われないか
  • データがどこに保存されるか(国内か、海外か)
  • 利用者への説明や同意が必要か(重要事項説明書や個人情報の利用目的に、どう書くか)

裏側で海外のAIを使っている機能もあります。「介護ソフトのAIなら、何を入れても大丈夫」ではありません。導入するときは、事業所として提供元に確認してください。

自分の情報なら自由。ただし、親の情報は親のものです

自分自身の情報をAIに入れるかどうかは、自分で決めてかまいません。体調の相談も、家計の相談も、自分の判断です。

ただ、親の介護をしている方には、ひとつだけ覚えておいてほしいことがあります。親の病気や介護の話は、自分の悩みであると同時に、親の情報でもあります。

介護の悩みをAIに相談するのは、とても良い使い方だと思います。そのときも、名前や細かい病歴までは入れず、「80代の母が、夜中に何度も起きる」くらいの書き方で十分に役立つ答えが返ってきます。

ルールを守っても、こう使えば大丈夫です

「入れてはいけないもの」ばかり並ぶと、結局何に使えばいいのか、わからなくなりますよね。コツは、型はAIに作らせ、利用者さんの中身は人が入れることです。

  • ケアプランの言い回し:「骨折後で歩行が不安定な要介護2の方の、短期目標の例を5つ」→ 出てきた例から選び、本人の言葉に合わせて書き直す
  • 事例の相談:「80代女性、一人暮らし、認知症の症状があり入浴を嫌がる。声かけの工夫は?」
  • 書類のひな形:サービス担当者会議の議事録、主治医への照会文、家族への案内文
  • 面談の準備:退院前カンファレンスで確認する項目、アセスメントでの聞き方
  • 調べもの:加算の要件や制度の改正点(答えは必ず公的な資料で確認)

ケアマネの時間をいちばん取るのは、「何を書くか」より「どう書くか」です。そこはAIが得意で、しかも個人情報がいりません。記録の要約や録音からの議事録づくりのように、実際の情報が必要な作業だけを、事業所の介護ソフトのAIに任せます。

事業所で使える「生成AI利用ルール」を配布しています

この記事の内容を、事業所でそのまま使えるルールにまとめました。私の事業所でも、これをもとにルールを作ります。

  • 本体(2ページ):使ってよいAIの区分、使う端末(私物のスマホやパソコンでは使わない)、入力のルール、誤って入力したときの報告など全10条と、職員の確認欄
  • 別紙「個人情報の早見表」(表裏1枚):表面は「それだけで個人情報」「組み合わさると個人情報」の一覧と書き換えの例、裏面は「こう使えば大丈夫」の使い方の例

早見表は、パソコンの横に貼っておけるように作っています。職員に署名をもらえば、事業所として「秘密を漏らさないための措置」をとった記録にもなります。

生成AI利用ルールをダウンロード

全4ページ/会員登録・メールアドレスの入力は不要です

生成AI利用ルールの1ページ目

ほかの研修資料や規程類は、介護事業所向け 無料研修資料のページにまとめています。

まとめ

  • 国もケアプランや会議録の原案作成にAIを使う方向。問題は「何を入れるか」
  • 現場ではルールのないまま、個人の無料版で利用者の記録を作っている人が少なくない
  • 名前を消しても、組み合わせで誰のことかわかれば個人情報。介護の情報の多くは「要配慮個人情報」
  • ケアマネの守秘義務は、辞めたあとも続く。AIのルールづくりは事業所の義務でもある
  • 利用者の情報を扱うなら、契約している介護ソフトのAIを。ただし学習利用や保存場所は確認する
  • 型はAIに作らせ、中身は人が入れる。事業所のルールは、配布中の「生成AI利用ルール」を使って今日から作れる

AIは、うまく使えば利用者さんと向き合う時間を増やしてくれます。その道具で、利用者さんの信頼を失っては意味がありません。守秘義務は、道具が変わっても変わらない。便利さに慣れてしまう前に、線を引いておきましょう。

※本記事は2026年9月時点の情報をもとにした一般的な内容です。実際の運用は、勤務先のルールや個人情報保護方針、利用するサービスの規約をご確認ください。

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