虐待防止の研修、委員会、指針。2024年度から、すべての介護サービスで義務になりました。
「うちは指針もあるし、研修もやっている」。そう思っている事業所は多いはずです。ですが、厚生労働省の最新の調査には、少しどきっとする数字があります。
虐待が起きた事業所の81.9%は研修を行い、78.4%は委員会を置き、77.0%は指針を整えていました。
書類がそろっていても、虐待は起きています。この記事では、事業所に義務づけられた4つの措置と、運営指導で見られる記録、そして「形だけ」にしないためのポイントを整理します。記事の最後で、指針・委員会の様式・研修テキストを無料で配布しています。
4つの措置のうち1つでも欠けると、減算されます
事業所に求められている虐待防止の措置は、次の4つです。
- 委員会:虐待防止のための対策を検討する委員会を定期的に開き、結果を職員に周知する
- 指針:「虐待の防止のための指針」を整える
- 研修:職員に研修を定期的に行う
- 担当者:上の3つを適切に行うための担当者を置く
このうち1つでも講じられていないと、高齢者虐待防止措置未実施減算として、基本報酬が所定単位数の1%減算されます。対象は居宅療養管理指導と特定福祉用具販売を除くすべてのサービスです(福祉用具貸与は2027年3月までの経過措置があります)。
1%と聞くと小さく感じるかもしれません。ですが、減算は利用者全員の基本報酬にかかります。そして何より、「虐待防止の措置を講じていない事業所」という評価そのものが重いものです。
運営指導で見られるのは「やったことが分かる記録」
運営指導の確認文書には、「虐待の防止のための指針」と「研修の計画及び実績」が挙げられています。委員会と担当者も、開いたこと・置いたことが分かる記録が必要です。4つの措置ごとに、求められていることを見ていきます。
委員会:開いて、話し合って、職員に伝える
委員会は、管理者を含む幅広い職種で構成し、定期的に開きます。話し合う事項として、解釈通知は次の7つを挙げています。
- 委員会その他事業所内の組織について
- 指針の整備について
- 職員研修の内容について
- 職員が相談・報告できる体制について
- 市町村への通報が迅速・適切に行われるための方法について
- 虐待等が起きた場合の原因分析と再発防止策について
- 再発防止策の効果の評価について
見落とされやすいのが「結果を職員に周知する」ところまでが委員会の役割だという点です。開催の記録はあっても、職員に伝えた記録がない、というケースは少なくありません。
小さな事業所には心強い規定もあります。委員会は、身体拘束や事故防止など他の会議と一体的に開いてよく、オンラインでの開催や、他の事業所と合同で行うこともできます。
指針:9つの項目をそろえる
指針に盛り込む項目も、解釈通知で決められています。
- 虐待の防止に関する基本的考え方
- 虐待防止検討委員会その他事業所内の組織に関する事項
- 職員研修に関する基本方針
- 虐待等が発生した場合の対応方法に関する基本方針
- 虐待等が発生した場合の相談・報告体制に関する事項
- 成年後見制度の利用支援に関する事項
- 虐待等に係る苦情解決方法に関する事項
- 利用者等に対する指針の閲覧に関する事項
- その他虐待の防止の推進のために必要な事項
抜けやすいのは「成年後見制度」と「指針の閲覧」です。指針は利用者・家族が読めるようにしておくものなので、事業所内に備え付けておく必要があります。
研修:年1回以上と、新規採用時
研修は定期的に(年1回以上)行い、新規採用時には必ず行います。グループホームなど、年2回以上とされているサービスもあります。事業所内での研修で差し支えなく、実施した内容は記録します。
ここで抜けやすいのが、年度の途中に入職した職員です。年1回の研修の日を待つのではなく、入職したときに同じテキストを使って個別に行い、記録を残しておきます。研修を欠席した職員も同じです。
担当者:専任で置き、委員長と同じ人が望ましい
4つ目は担当者です。委員会の責任者と同じ職員が務めることが望ましいとされています。身体拘束や感染対策、事故防止などの担当との兼務は、職務に支障がなければ差し支えありません。「誰が担当なのか」を書面で決めておくと、運営指導でもそのまま示せます。
「報告したから大丈夫」ではありません
指針やマニュアルで、いちばん誤解されやすいのが通報です。
介護の仕事をしている人は、自分の職場で虐待を受けたと思われる利用者を見つけたら、速やかに市町村へ通報しなければなりません(高齢者虐待防止法 第21条)。事業所内で上司に報告したからといって、この義務がなくなるわけではありません。報告と通報は別のものです。
- 通報に必要なのは「虐待を受けたと思われる」段階まで。確証も証拠もいらない
- 守秘義務があっても通報できる
- 通報したことを理由に、解雇などの不利益な扱いをすることは禁止されている
令和6年度の調査で、通報した人の中で最も多かったのは「その施設の職員」(27.4%)でした。声を上げる職員を守れる仕組みになっているか。指針を作るときは、ここを必ず確認してください。
書類をそろえたあとに、いちばん大事なこと
冒頭の数字に戻ります。虐待が起きた事業所の多くは、研修も委員会も指針もそろえていました。では、何が足りなかったのか。
同じ調査で、虐待の発生要因として最も多かったのは「職員の虐待や権利擁護、身体拘束に関する知識・意識の不足」(75.9%)です。「職員のストレス・感情コントロール」(62.5%)、「職員の指導管理体制が不十分」(61.9%)も6割を超えています。
研修をしても、知識が現場で使われなければ防げません。委員会を開いても、職員が相談できない雰囲気なら気づけません。書類は、虐待を防ぐための道具です。道具をそろえることがゴールになってしまうと、数字のとおりのことが起きます。
たとえば研修では、法律の説明だけで終わらせず、「ちょっと待ってね」と言ったまま戻らない、子ども扱いの呼び方をする、といった日々の場面を扱うほうが、現場の行動は変わりやすいと感じています。
指針・委員会の様式・研修テキストを配布しています
ここまでの内容を、事業所でそのまま使える形にまとめました。厚生労働省の解釈通知と「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」(令和7年3月)をもとにしています。Word版は事業所名や連絡先を書き換えて使えます。
高齢者虐待の防止 研修テキスト
- 虐待の5つの類型と、現場での具体例
- 令和6年度の調査データ(件数・類型・発生要因)
- 不適切なケアと虐待の境界線、場面ごとの対応
- 事業所の4つの措置と、通報のしかた・通報者の保護
- 切り離して提出できる受講報告シート
虐待の防止のための指針・委員会と研修の様式集
- 虐待の防止のための指針(6ページ):解釈通知の9項目を同じ順番で記載。後半は職員向けの対応マニュアル(報告してほしい場面、発見から再発防止までの流れ、家庭での虐待に気づいたとき)と、虐待(疑い)発見時の報告書
- 委員会・研修の様式集(6ページ):担当者の選任・委員会の構成/委員会の開催記録(7つの検討事項のチェック欄つき)/職員への周知記録/年間計画・実績表/研修の実施報告書(新規採用時・欠席者への対応の欄つき)
ほかの研修資料は、介護事業所向け 無料研修資料のページにまとめています。
まとめ
- 虐待防止の措置は、委員会・指針・研修・担当者の4つ。1つでも欠けると基本報酬が1%減算される
- 委員会は結果を職員に周知するところまで。他の会議と一体、オンライン、他の事業所と合同でもよい
- 指針は解釈通知の9項目をそろえる。成年後見制度と閲覧が抜けやすい
- 研修は年1回以上と新規採用時。途中入職者と欠席者の記録を忘れない
- 事業所内への報告と、市町村への通報は別。通報者は法律で守られる
- 虐待が起きた事業所の8割は書類をそろえていた。書類はゴールではなく道具
書類を整えるのは、運営指導のためだけではありません。職員が迷ったときに開ける場所をつくっておくことが、利用者さんと職員の両方を守ることにつながります。
※本記事は2026年9月時点の情報をもとにしています。研修の回数など、サービスの種類によって基準が異なる部分があります。詳しくは指定権者(都道府県・市町村)にご確認ください。


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