BCPは作った。でも、動かせるだろうか

介護の知識

介護事業所には、BCP——業務継続計画の策定が義務づけられています。

私の事業所でも作ってあります。ただ、熊本の地震のニュースを見ながら思いました。あれ、動かせるだろうかと。

正直に書きます。書類はあります。でも、それを職員全員が把握しているかというと、自信がありません。

作ったきりになっていないか

BCPには、災害時にどう動くかが書かれています。停電したらどうするか。職員が出勤できないとき、誰が何を担当するか。利用者さんの安否確認は、どういう順番で回るか。

問題は、それが「書いてある」だけで終わっていないかということです。

計画を作ったのは管理者や一部の職員です。夜勤帯に地震が起きたとき、その場にいる職員が計画の中身を知らなければ、書類は役に立ちません。「知っている人が一人だけ」という状態が、いちばん危ないのです。

近いうちに、職員で話し合う場を作ろうと思っています。難しいことをする必要はありません。計画書を読み合わせるだけでもいい。そこから「これ、どうするんですか」という質問が出れば、それが見直しの出発点になります。

実際に地震が起きたとき、私がしたこと

以前、震度5程度の地震を経験したことがあります。全国ニュースで速報が流れる規模でした。

あのとき私がしたのは、社用の携帯から、利用者様とご家族に一斉メールを送ることでした。施設内の様子、入居者様のご無事。連絡先は社用携帯に登録してあったので、すぐに送れました。

電話をかけて回る時間は、まったくありませんでした。一人ずつかけていたら何時間かかったか分かりません。メールなら一度に届きます。あのとき登録しておいてよかった、と心から思いました。

ご家族にとって、いちばん知りたいのは「無事かどうか」の一点です。詳しい説明は後でいい。まず無事を伝える手段を持っているか——これはBCPに書いておくべき具体的な項目だと思います。

ただし、幸い大きな被害はなく、電話も通信も生きていました。大災害と呼ばれる規模になったとき、同じようにできるだろうか。携帯がつながらなかったら。停電が続いたら。正直、想像がつきません。

見直すなら、ここから

完璧な計画を作ろうとすると、手が止まります。まずは具体的な場面を思い浮かべて、答えられるかどうかを確認するのが早いと思います。

  • 夜勤帯に震度6が起きたら、最初に何をするか——その場の職員が答えられるか
  • 安否をどう伝えるか——ご家族への連絡手段は登録されているか。電話以外の方法はあるか
  • 停電したら——何時間もつのか。医療機器を使っている方はいるか
  • 断水したら——飲み水、トイレ、清潔の保持。備蓄は何日分か
  • 職員が出勤できないとき——最低何人いれば回るのか。近くに住む職員は誰か
  • 利用者さんを動かせないとき——建物に留まる判断は誰がするのか

ひとつでも「分からない」があれば、そこが見直すべき箇所です。

備蓄で見落としがちなもの

食料と水は多くの事業所が備えています。見落としやすいのはこちらです。

  • 携帯トイレ・おむつ——断水で最初に困るのがトイレです。介護施設なら量が要ります
  • 薬——利用者さんの服薬情報を、すぐ持ち出せる形にしてあるか
  • とろみ剤・経管栄養剤——嚥下に配慮が必要な方の食事は代替が効きません
  • 充電手段——安否連絡の生命線です。モバイルバッテリー、車からの給電
  • 暑さ寒さ対策——停電で空調が止まったときの扇風機、毛布、保冷剤

特にとろみ剤は盲点になりがちです。一般の避難所には置いていません。これがないと、食事も水分もとれない方がいます。

避難所は、高齢の方には過酷な場所

もうひとつ考えておきたいのが、避難する判断です。

建物が危険なら避難するしかありません。ただ、一般の避難所は高齢の方にとって過酷な環境です。硬い床、遠いトイレ、プライバシーのなさ。数日で歩けなくなる方が出ます。

自治体には福祉避難所という仕組みがあります。高齢者や障害のある方を受け入れる指定施設です。自分たちの地域のどこが福祉避難所なのか、把握できているでしょうか。私は正直、あいまいでした。

避難生活が命に関わる理由については、災害関連死の記事に詳しく書きました。熊本地震では、亡くなった方の約8割が災害関連死でした。

計画通りに動けないかもしれない、という現実

ここからは、答えの出ていない話を書きます。

私の県には原子力発電所があります。事故が起きた場合、私の地域は県外への避難が指示される区域です。計画上は、そう決まっています。

その計画を読んだとき、正直に思いました。これは、実行できるのだろうかと。

私が関わっているのは、80代、90代、100歳を超える方々です。寝たきりの方も、認知症で環境の変化に混乱される方も、医療的なケアが必要な方もいます。

その方々をバスに乗せて、何時間もかけて県外へ運ぶ。到着した先の避難所で生活していただく。——その道中と、その後の生活に、体が耐えられるだろうか。

前の記事に書いたとおり、災害関連死で亡くなる方の約8割が70歳以上です。移動そのものが、命に関わる負担になり得ます。

では、どうするのか

誤解のないように書きますが、避難指示は従うべきものです。専門家が被曝のリスクを評価して出しているものであり、私に「無視していい」と言う資格はありません。

私が言いたいのは別のことです。計画通りに動けない可能性があるなら、そのときどうするかを、あらかじめ考えておかなければならないということです。

今の私の考えは、こうです。

  • 県外にご家族がいる方——迎えに来ていただけないか、平時から相談しておく
  • それが難しい方——どこまで施設で対応できるのか、その場合に何が必要かを詰めておく
  • 受け入れ先——県外の協力施設と、事前に話をつけられないか

どれも簡単ではありません。ご家族に「もしものときは迎えに来てください」と伝えておくこと自体、切り出しにくい話です。それでも、何も決めていないまま当日を迎えるよりはいいと思っています。

そして何より大切なのは、この問いを一人で抱え込まないことです。

BCPの本質は、みんなで考えること

BCPというと、書類を完成させることだと思われがちです。でも本当に大事なのは、その施設にとっての最適解を、みんなで考えるプロセスのほうだと思います。

私の地域は原発が近いという事情がありますが、地域によって条件はまったく違います。津波、洪水、土砂災害、豪雪。あなたの施設に何が起こり得るかは、あなたの施設でしか分かりません。

だから、まず自分たちの地域の避難計画を確認するところから始めてみてください。

  • 自分の施設は、どの区域に指定されているか
  • どんな災害のとき、どこへ避難するよう定められているか
  • その計画は、うちの利用者さんに実行可能か
  • 実行できないとしたら、代わりに何ができるか

確認してみると、知らなかったことが必ず出てきます。私自身、計画を読み込むまで、自分の地域が県外避難の対象だと正確には把握していませんでした。

そして、それを職員と共有する。「うちの場合どうする?」を話し合う。答えが出なくてもいいのです。考えたことがある人が施設に何人もいる——その状態が、当日の動きを変えます。

個人にできることは、知識を蓄えること、それを共有すること、どう動くかを話し合うこと。地味ですが、これに勝る備えはないと思っています。

形式のためでなく、使うために

BCPは義務だから作る、という側面が正直あります。実地指導で確認される項目でもあります。

でも本来は、利用者さんの命と、職員の身を守るためのものです。あの日、その場にいた職員が迷わず動けるかどうか。それだけが問われます。

私も見直します。まずは職員と読み合わせるところから。完璧でなくていいので、動かせる形にしておくこと。それが今の目標です。

そして、答えの出ない問いも一緒に置いておきます。「うちの利用者さんを、本当に避難させられるのか」。この問いを、職員みんなで一度考えてみてください。それがBCPを”生きた計画”にする、いちばんの近道だと思います。

離れた場所からの支援や家庭での備えについてはこちらの記事に書きました。

※BCPの様式や求められる内容は、厚生労働省のガイドラインや自治体の指導によって異なります。詳細は公式情報をご確認ください。

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