2026年10月1日から、利用者や家族などからのハラスメント(カスタマーハラスメント)への対策が、すべての事業所の義務になります。これから「ハラスメント」という言葉を耳にする機会は、確実に増えていきます。
ただ、大事なのは言葉を増やすことではありません。目の前で起きていることが本当にハラスメントなのかを見極めること。そして、自分にできることを知っておくことです。この記事では、その2つを一緒に考えていきます。
まず、3つのハラスメントを知っておく
介護現場で押さえておきたいのは、パワハラ・セクハラ・カスハラの3つです。法律の定義を、ひとことで言い換えるとこうなります。
パワハラ(パワーハラスメント)
立場の強い人が、仕事に必要な範囲を超えて、相手が働きにくくなる言動をすること。上司から部下だけでなく、経験の長い職員から新人へ、集団から一人へ、という関係も含まれます。
セクハラ(セクシュアルハラスメント)
相手が望まない性的な言葉や行動で、その人を働きにくくすること。同性どうしでも成り立ちますし、利用者や家族からの言動も含まれます。
カスハラ(カスタマーハラスメント)
利用者や家族が、社会の常識で許される範囲を超えた言動で、職員を働きにくくすること。怒鳴る、叩く、何時間も拘束する、「辞めさせる」と脅す、などです。
3つに共通するのは、「働く環境が害されている」という点です。
なお、職員から利用者への不適切な言動は、職場のハラスメントとは別に「虐待」や「不適切なケア」として扱われます。こちらは事業所の中だけで済ませず、市町村への通報を含めて対応するものです。
それ、本当にハラスメント? 見極めたい3つの境界線
嫌な思いをしたとき、それを全部ハラスメントと呼んでしまうと、かえって正しい対応ができなくなります。迷いやすい境界線が3つあります。
① 正当な苦情と、カスハラ
事故の説明を求める。サービスの改善を求める。これは正当な苦情で、ハラスメントではありません。むしろ、事業所がきちんと応えなければいけないものです。
一方で、求めている中身が正当でも、手段が行き過ぎていればカスハラにあたります。怒鳴り続ける、何時間も帰さない、土下座を求める、夜中にくり返し電話をかける、といったものです。
見るべきは「何を求めているか」ではなく「どう求めているか」です。
② 厳しい指導と、パワハラ
ミスを注意すること、安全のために強く止めることは、必要な指導です。注意されて嫌な気持ちになったとしても、それだけでパワハラにはなりません。
問題になるのは、注意の中身ではなくやり方です。利用者や同僚の前で責める。「向いていない」「辞めたら」と人格を否定する。同じことを長時間くり返す。こうなったとき、指導はパワハラに変わります。
③ 病気の症状と、ハラスメント
厚生労働省の資料では、認知症などの病気や障害の症状として出た言動は、ハラスメントとは区別して考えるとされています。叩く、怒鳴る、といった行動が、本人の意思ではなく症状として出ていることがあるからです。
ただし、原因が病気でも、職員の安全を犠牲にしてよいわけではありません。医師に相談する、ケアの方法を見直す、二人で対応する。ハラスメントではないと判断したら我慢して終わり、ではなく、違う方法で対応が必要になるということです。
自分の関わり方も、ふりかえってみる
ここからは、少し耳の痛い話かもしれません。先に大事なことを言っておきます。
どんな理由があっても、暴力・性的な言動・人格を否定する言葉は許されません。ハラスメントを受けた人が悪いのではありません。
そのうえで、厚生労働省の事例集を読むと、強い言葉が出てくる前に、きっかけがあった事例が少なくないことに気づきます。
- 5分の遅刻と、連絡の遅れ:訪問が5分ほど遅れそうになり、事業所から家族への連絡が間に合わなかった。家族は強く怒り、「帰れ」「利用者に触るな」とサービスを拒否した
- 制度の説明が届いていなかった:介護保険の仕組みを理解できていない家族が、料金に納得できず、ケアマネジャーに乱暴なメールを1か月以上送り続けた
- 事故のあとの対応:介助中の骨折事故のあと、管理者が一人で対応を抱え込み、自分の判断で金品を渡したり記録を見せたりしたことで、責任の追及がかえって激しくなった
どの事例でも、相手の言動が行き過ぎていたことに変わりはありません。ですが、こちらの関わり方しだいで、防げた部分や、こじらせずに済んだ部分もあったと、事業所自身がふりかえっています。
ふりかえるときのポイントは、次のとおりです。
- 説明は足りていたか:料金やサービスの内容、できること・できないことを、相手がわかる言葉で伝えられていたか
- 約束を守れていたか:時間、連絡、頼まれたこと。小さな行き違いが、不満の積み重ねになっていないか
- 相手の状況に目を向けていたか:介護に疲れている、病気や障害を抱えている。怒りの奥に、余裕のなさが隠れていることがあります
- 自分の言い方や態度はどうだったか:急かしていないか、専門用語で片づけていないか
- 一人で抱えていなかったか:自分だけで何とかしようとして、かえってこじらせていないか
介護保険の仕組みは、ご家族にとってわかりにくいものです。説明の土台になる考え方は、こちらでまとめています。
介護保険の限度額はどれくらい使える? 要介護1ならデイ週3回でも6割です
現場の肌感覚として、利用者さんやご家族の強い言葉は、ある日突然出てくるというより、小さな不満が積み重なった先に出てくることが多いように感じます。ふりかえりの目的は、「自分が悪かった」と結論づけることではありません。防げるものは防ぎ、防げないものは組織で対応するためです。
ハラスメントだと感じたら、こう動く
見極めに迷うときも、判断を一人でする必要はありません。迷った段階で相談してよいのです。
- その場では、自分の安全が最優先:相手と距離をとり、出口の側に立つ。危険を感じたら、その場を離れてよい。説得を続ける必要はありません
- 事実を記録する:いつ、どこで、何を言われ、何をされたか。言われた言葉はできるだけそのまま書く
- その日のうちに報告する:職員どうしの愚痴で終わらせず、管理者や相談窓口に伝える
- 一人で対応しない:担当の変更や二人での対応は、事業所が判断して行うものです
厚生労働省の事例集には、利用者から体のことを言われ続けた職員の事例があります。管理者に届く前、職員どうしで「こんなことを言われた」と話している段階が1か月ほどありました。事業所はふりかえりで、その時点で対応していれば、もっと早く解決できたと記しています。
相談を受ける側にも、言ってはいけない言葉があります。「介護の仕事だから我慢して」「本人どうしで話し合って」「気にしすぎじゃない?」。こう返されると、次からは誰も相談しなくなります。
研修テキスト・基本方針・対応マニュアルを配布しています
この記事の内容を、事業所の研修でそのまま使えるテキストにまとめました。
- パワハラ・セクハラ・カスハラの定義と、正当な苦情との違い
- 厚生労働省の事例集をもとにした、介護現場の事例4つ(グループで話し合う問いつき)
- 起きたときの動き方と、記録の書き方
- 切り離して提出できる受講報告シート
研修とあわせて、事業所の基本方針と対応マニュアルも配布しています。10月1日からの義務の中心は、ハラスメントを許さない方針を決めて知らせることと、相談の体制を整えることです。
- 基本方針(1ページ):事業所に掲示したり、契約のときに利用者・家族に渡したりする用
- 対応マニュアル(8ページ):起きたときの手順、中断・退出の目安、重要事項説明書・契約書の文例、掲示用の対応フロー、相談・発生状況記録票、管理者の初動チェックリスト
ほかの研修資料は、介護事業所向け 無料研修資料のページにまとめています。
まとめ
- パワハラ・セクハラ・カスハラに共通するのは「働く環境が害されている」こと。2026年10月1日からカスハラ対策も事業所の義務になる
- 正当な苦情はカスハラではない。見るのは「何を求めているか」ではなく「どう求めているか」
- 厳しい指導はパワハラではない。問題になるのは人前での叱責や人格の否定といった「やり方」
- 病気の症状による言動はハラスメントと区別する。ただし職員の安全は犠牲にしない
- 自分の関わり方をふりかえるのは、自分を責めるためではなく、防げるものを防ぎ、防げないものを組織で対応するため
我慢することは、専門性ではありません。見極める目を持ち、迷ったら相談する。それが、自分を守り、利用者さんへのケアを守ることにつながります。
※本記事は2026年9月時点の情報をもとにしています。個別の事案がハラスメントにあたるかどうかは、状況によって判断が変わります。判断に迷う場合は、事業所の相談窓口や、都道府県労働局の総合労働相談コーナーなどにご相談ください。
あなた自身が、あなたの人生を一番素敵にできる人です。

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