介護のお金の制度には、共通した特徴があります。制度があちこちに散らばっていて、しかも申請しないともらえない。知らなかったというだけで、使えるはずのお金を受け取れないまま終わります。
そんななか、2026年8月26日に新しい動きがありました。家事支援サービスの利用に税制上の優遇を作るという要望が、複数の省庁から出されたのです。
この機会に、いま使える制度を一度地図にしておきます。そのうえで、来年増えるかもしれない仕組みの話をします。
いま使える制度は、大きく4つに分けられる
制度を個別に覚えようとすると混乱します。「何を軽くする制度か」で分けると、頭に入りやすくなります。
- ① 毎月の負担に上限をかける——高額介護サービス費。1か月の自己負担が上限を超えたら、超えた分が戻ります
- ② 施設の食費・居住費を下げる——補足給付(特定入所者介護サービス費)。所得と資産が一定以下の方が対象です
- ③ 住まいと道具に使う——住宅改修と福祉用具。手すりや段差解消に使えますが、順番を間違えると対象外になります
- ④ 税金を減らす・現金をもらう——障害者控除・特別障害者手当・医療費控除・介護休業給付金。手帳がなくても対象になることがあります
①③④はそれぞれ記事にまとめてあるので、ここではいちばん見落とされやすい②の補足給付を掘り下げます。
見落とされやすい「補足給付」
補足給付は、介護保険施設に入ったときの食費と居住費を軽くする制度です。特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護医療院、それにショートステイが対象になります。
ここが効くのは、施設の費用のうち、介護保険が効かない部分がまさに食費と居住費だからです。介護サービス費は1割負担で済んでも、食べることと住むことにはそのままお金がかかります。月々の請求が大きくなる原因は、ここです。
対象になるのは、市町村民税が非課税の世帯で、なおかつ資産が一定額以下の方です。所得だけでなく、資産も見られるのが特徴です。
- 第1段階:預貯金等が1,000万円以下(単身の場合)
- 第2段階:650万円以下
- 第3段階①:550万円以下
- 第3段階②:500万円以下
配偶者がいる場合は、それぞれ1,000万円が上乗せされます。借入金や住宅ローンがあれば差し引いて計算します。
そして申請が必要です。市区町村に申請して「負担限度額認定証」を受け取り、それを施設に出して初めて適用されます。黙っていて自動的に安くなることはありません。
投資をしている人は、ここに注意
この補足給付について、意外と知られていないことがあります。
資産として見られるのは、預貯金だけではありません。株式や投資信託も含まれます。
普通預金・定期預金はもちろん、有価証券(株式・国債・社債など)、投資信託、時価がすぐ分かる金や銀なども対象です。NISAで積み立ててきた資産も、当然この中に入ります。
つまり、コツコツ資産を作ってきた方は、施設費用を軽くする制度の対象からは外れる可能性が高いということです。
ただ、これを損だと考える必要はないと思っています。制度の対象にならないというのは、自分の資産で払えるということだからです。補足給付は、備えたくても備えられなかった方のための仕組みです。そこに頼らずに済む状態を作れたなら、それ自体が備えの成果でしょう。
大事なのは、自分がどちら側なのかを、あらかじめ知っておくことです。「いざとなれば制度があるから」と考えていた方が、資産があるために対象外だと分かる——この順番でつまずくのがいちばんつらい。介護資金を自分で作るという考え方も、あわせて読んでみてください。
来年、もうひとつ増えるかもしれない
冒頭に書いた新しい動きです。
経済産業省・厚生労働省・こども家庭庁の3省庁が共同で、家事支援サービスの利用に対する税制優遇の創設を要望する方針を固めました。2026年8月26日の自民党の会合で公表されたものです。
- 家事支援サービスやベビーシッターの利用料をもとに、所得税や住民税を軽くする案が検討されている
- 対象として想定されているのは、2027年に創設予定の「家事支援サービスの国家資格」を持つ人材に依頼した場合など
- 狙いは、介護や出産・育児による離職を食い止めること
ただし、これはまだ「要望」の段階です。具体的な内容は、来年度の税制改正をめぐる議論の中で詰められていきます。決まったものとして期待しすぎないほうがいいでしょう。
現場から見ると、この方向は理にかなっている
ケアマネジャーとして、この要望はよく分かる話だと感じました。
介護保険は、「介護」しか見てくれません。掃除や洗濯、買い物といった生活援助は、同居している家族がいると使いにくくなります。「家族がいるならできますよね」という理屈です。
ですが、働きながら介護をしている方が倒れるのは、介護そのものの重さだけが理由ではありません。仕事と介護と家事の合計に、耐えられなくなるのです。夜に洗濯物をたたみながら、明日の弁当のことを考えている。その積み重ねが効いてきます。
介護保険が埋められないのは、まさにこの部分です。そこを外部サービスで埋められるようにする方向は、現場感覚として正しいと思います。
気がかりがあるとすれば、制度が増えるほど「知らないと使えない」ものも増えるということです。介護のお金の制度は、ほぼすべてが申請主義です。使える人が知らないまま、という状況は今も変わっていません。
稼いで、お金にも働いてもらって、プロに頼る
制度の話をしてきましたが、最後にもうひとつ書いておきたいことがあります。
これからの介護は、「お金を払ってプロに頼る」ことを前提に設計したほうがいいと思っています。
しっかり働いて稼ぐ。その一部を投資に回して、お金にも働いてもらう。そうやって作った資産で、外部のサービスを買う。自分ひとりで抱え込まない。この順番です。
介護離職を防ぐという意味でも、これは効きます。仕事を辞めて自分で介護をすれば、サービス費用は減るように見えます。でも失うのは収入だけではありません。社会とのつながりも、復職の機会も、将来受け取る年金額も減ります。合計してみると、サービスを買ったほうが安くつくことは珍しくありません。
ただ、私がいちばんの利点だと思っているのは、お金の計算ではありません。
プロに頼ると、ストレスを溜めずに済む。
現場で行き詰まっていくのは、全部を自分でやろうとするご家庭です。デイサービスを使うことに罪悪感を持つ方、ショートステイを「預けてしまう」と表現する方は少なくありません。ですが、24時間365日を家族だけで支える設計に、そもそも無理があります。
疲れ切った家族の介護より、適度に休めている家族の介護のほうが、ご本人にとっても穏やかです。プロに任せるのは手抜きではなく、介護を続けるための方法だと考えてください。
もちろん、誰もがサービスを買えるわけではありません。だからこそ制度があります。制度は土台で、その上に自分の備えを積む。どちらか一方を選ぶ話ではありません。そして備えられる人が自分で備えておけば、制度は本当に必要な人に回ります。
そのための資産形成については、老後資金を先に終わらせるという考え方にも書きました。
まとめ
- 介護のお金の制度は「毎月の上限」「施設の食費・居住費」「住まいと道具」「税金と現金」の4つに整理できる
- 見落とされやすいのが補足給付。施設の食費と居住費を軽くする制度で、申請して認定証をもらわないと適用されない
- 補足給付は所得だけでなく資産も見られる。預貯金は単身1,000万円以下から段階があり、配偶者がいれば1,000万円上乗せ
- 株式や投資信託、NISAの資産も「資産」に含まれる。資産を作ってきた人は対象外になりやすい
- ただしそれは、自分の資産で払えるということ。大事なのは自分がどちら側かを先に知っておくこと
- 家事支援サービスの利用に税制優遇を作る要望が3省庁から出された。2027年創設予定の国家資格保有者の利用が想定されている。まだ要望段階
- 介護保険は家事の部分が手薄。働く人が倒れるのは、仕事と介護と家事の合計によるもの
- 稼いで、お金にも働いてもらい、そのお金でプロに頼る。介護離職を防ぐうえでも有効で、最大の利点はストレスを溜めずに済むこと
制度は、知っている人のところにだけ届きます。ご家族の介護が始まったら、まずは担当のケアマネジャーか、市区町村の窓口に「使える制度はありますか」と聞いてみてください。それだけで数十万円変わることがあります。
あなた自身が、あなたの人生を一番素敵にできる人です。
※本記事は2026年8月時点の情報に基づく個人の考えであり、制度の詳細や要件は改定される場合があります。税制改正の要望は決定事項ではありません。適用の可否は個別の状況によって異なりますので、お住まいの市区町村・担当のケアマネジャー・税務署にご確認ください。

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