介護が始まると、家の中を少し変える必要が出てきます。玄関に手すりをつけたい、トイレを洋式にしたい、お風呂に椅子を置きたい。
実はこれ、介護保険から最大18万円が出ます。ただし、順番を間違えると1円も出ません。
今日は、住宅改修と福祉用具で損をしないための話をします。
住宅改修は20万円まで使えます
介護保険の住宅改修は、20万円までの工事が対象になります。自己負担が1割の方なら、18万円が戻ってくる計算です。
対象になる工事は、次の6つです。
- 手すりの取り付け
- 段差の解消
- 滑りにくい床材への変更
- 引き戸などへの扉の取り替え
- 洋式便器などへの便器の取り替え
- 上の工事に付随して必要になる工事
「20万円も工事しないよ」と思われるかもしれません。でも、手すり1本でも対象になります。数万円の工事から使える制度です。
一度に使い切る必要はありません
意外と知られていないのですが、この20万円は何回かに分けて使えます。
- 1回目:玄関とトイレに手すり(10万円)→ 残り10万円
- 2回目:浴室の段差を解消(8万円)→ 残り2万円
- 3回目:廊下に手すりを追加(2万円)→ 使い切り
合計が20万円に収まっていれば、何回に分けても構いません。「一度にまとめて工事しないと損をする」ということはない——ここを知っておいてください。
今困っていることから、必要な分だけ。それで大丈夫です。
ただし、分けて使う場合もその都度「工事前の申請」が必要です。1回目に申請したから2回目も大丈夫、ということはありません。
迷ったら、まず福祉用具で試す
退院直後などで、これから状態がどう変わるか読めないときもあります。そんなときは、工事の前に福祉用具の貸与で試すという方法があります。
置き型の手すりやスロープなら、工事なしで設置でき、合わなければ返せます。使ってみて「やはり固定したほうがいい」と分かってから工事する——これなら無駄になりません。
いちばん多い失敗は「工事してから申請」
ここが最大の落とし穴です。
住宅改修は、工事を始める前に申請しなければいけません。工事が終わってから「実は制度があったんですね」と申請しても、原則として支給されません。
事前に必要になるのは、こうした書類です。
- 支給申請書
- 工事費の見積書
- 住宅改修が必要な理由書
- 改修前の写真や図面
このうち「理由書」は、ケアマネジャーなどが作成します。つまり、業者を決める前にケアマネへ一言伝えるだけで、この失敗は防げるということです。
現場の肌感覚として、この順番を知らないまま工事を進めてしまう方は少なくありません。良かれと思って早く動いた結果、18万円を逃してしまう。あまりにもったいない話です。
20万円の枠が復活することがあります
20万円は、原則として一生涯で1回分の枠です。ただし、例外が2つあります。
①要介護度が3段階以上上がったとき
たとえば要支援1だった方が要介護3になった場合などです。ただしこのリセットは、原則として1人1回までとされています。
②引っ越したとき
住所が変われば、新しい住まいで改めて20万円の枠が使えます。こちらは回数の制限がありません。
「昔使ったから、もう無理でしょう」と諦めている方は、一度確認してみる価値があります。
あわせて知っておきたいのが、この20万円は「一人につき」の枠だということです。
ご夫婦のどちらも要介護・要支援の認定を受けている場合、お二人それぞれが自分の枠を持っています。
ここで大事なのは、あくまで「その人にとって必要な改修」であることが前提だということです。配偶者の枠を借りて工事する、という話ではありません。
ただ、現実にはこういうことが起こります。ご主人のために玄関に手すりをつけた。その後、奥様も足腰が弱ってきて、廊下や浴室に手すりが必要になった。それぞれに必要性があるなら、それぞれが申請できる——そういうことです。
もちろん、取り付けた手すりはご夫婦どちらも使います。それは自然なことです。「もう家の分は使い切った」と思い込む必要はない、と知っておいてください。
判断に迷う場合は、担当のケアマネジャーや市町村の窓口に相談してください。
福祉用具は「借りる」と「買う」に分かれます
福祉用具には、レンタルできるものと、購入するものがあります。
借りるもの(福祉用具貸与)
介護ベッド、車いす、床ずれ防止用具、スロープ、歩行器、移動用リフトなど
買うもの(特定福祉用具販売)
ポータブルトイレ、入浴用の椅子、簡易浴槽、リフトのつり具など
肌に直接触れるもの、他の方が使ったものを再利用しにくいものが「買う」側だと考えるとわかりやすいと思います。
購入は年間10万円までが対象です。この「年間」は4月から翌年3月まで。年度をまたげば、また10万円の枠が使えます。
買う場所を間違えると、1円も出ません
福祉用具の購入で最も多い失敗がこれです。
介護保険の対象になるのは、都道府県の指定を受けた事業者から買った場合だけです。ネット通販やホームセンターで同じ商品を買っても、支給されません。
同じポータブルトイレでも、買う場所が違うだけで、自己負担が1割になるか10割になるかが変わります。しかも、買ってしまった後では戻せません。
安く売っていたから。すぐに必要だったから。理由はさまざまですが、先に一本電話をもらえていれば防げたのに、と思う場面です。
2024年から「借りる・買う」を選べる用具ができました
2024年4月から、一部の福祉用具は貸与と購入を選べるようになりました。
- 固定用スロープ(室内の段差に置いて使うもの)
- 歩行器(車輪のついていないもの)
- 一部の杖(多点杖など)
長く使うなら買ったほうが安く、短期間なら借りたほうが安い。そう考えたくなりますが、私は基本的に「借りる」をおすすめしています。
理由は3つあります。
- 本人に合ったものを選べる——実際に使ってみて、合わなければ変更できます。同じ歩行器でも、高さや形が違うだけで使いやすさはまったく変わります
- 状態が変わったら、変えられる——歩けていた方が車いすになる。逆に、リハビリで歩けるようになる。体の状態は必ず変わります。そのとき、貸与なら適したものに切り替えられます
- 使わなくなったとき、困らない——購入した車いすや歩行器が使われなくなり、部屋の隅に置かれたままになる。処分するにもお金と手間がかかります。大きな福祉用具ほど、これが現実的な問題になります
「使い続けるなら買ったほうが得」という計算は成り立ちます。ただ介護は、いつまで何が必要か読めないことのほうが多いのです。その不確かさに対応できるのが、貸与という仕組みの強みだと思っています。
逆に言えば、購入するものは「借りられないもの」だと考えると分かりやすいです。シャワーチェア、浴室の手すり、ポータブルトイレ——肌に直接触れ、他の方が使ったものを再利用しにくいから、購入という形になっています。
「今は歩行器が必要だけれど、半年後には車いすかもしれない」。この見通しを、ご家族だけで立てるのはかなり難しいと思います。ここはぜひ、担当のケアマネジャーや福祉用具の専門相談員に相談してください。
まとめ
- 20万円は複数回に分けて使える。一度に使い切る必要はない。
- 枠は一人につき20万円。ご夫婦それぞれが認定を受けていれば、それぞれに必要な改修を申請できる。
- 判断に迷うときは、まず福祉用具の貸与で試す。合ってから工事すればいい。
- 住宅改修は20万円まで。必ず工事の前に申請する
- 20万円の枠は、要介護度が3段階上がるか、引っ越しで復活することがある
- 福祉用具の購入は年間10万円まで。4月始まりの枠
- 購入は指定事業者から。ネット通販では支給されない
- 借りるか買うかで迷ったら、ケアマネジャーに相談する
- 迷ったら基本は「借りる」。本人に合わせて選べ、状態が変われば変更でき、不要になっても困らない。
なお、住宅改修や福祉用具については、市町村が独自に上乗せの助成を行っている場合があります。金額や条件は自治体によって異なりますので、詳しくはお住まいの市町村の介護保険担当窓口、または地域包括支援センターへお問い合わせください。
担当のケアマネジャーがついている方は、ケアマネに聞くのがいちばん早いです。地域の制度を把握しておくのが私たちの仕事ですから、遠慮なく声をかけてください。
あなた自身が、あなたの人生を一番素敵にできる人です。


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