「投資を始めたいけれど、商品が多すぎてどれを選べばいいか分からない」——よく聞く声です。実際、日本で買える投資信託は何千本もあります。
ただ、選ぶ基準そのものは、実はかなりシンプルです。見るべきところは、ほとんど手数料しかありません。今回はその理由と、私がオルカン(eMAXIS Slim 全世界株式・オール・カントリー)を選んでいる理由を書きます。
選べるのは、リターンではなく手数料だけ
まず、大前提をひとつ。
将来のリターンは、誰にも選べません。去年よく上がった商品が来年も上がる保証はありませんし、プロが運用しても市場平均に勝ち続けるのは簡単ではありません。買う時点で確定していないものを基準にしても、意味がないわけです。
一方で、手数料だけは、買う前から確定しています。そして必ず引かれます。相場が上がっても下がっても、毎年きっちり差し引かれる。
投資で自分がコントロールできるのは、コストと、続ける時間だけです。
だから商品選びは、手数料を見ればほぼ終わります。具体的には次の3つですが、いまは信託報酬だけ見ておけば十分です。
- 販売手数料——買うときの手数料。ネット証券のインデックス投信は基本ゼロ(ノーロード)
- 信託報酬——保有している間ずっとかかる費用。ここが本命
- 信託財産留保額——解約時に引かれる費用。かからない商品も多い
30年で564万円の差になる
オルカンの信託報酬は、年0.05775%(税込)です。金額にするとこうなります。
- 100万円を預けて、年578円
- 1,000万円を預けても、年5,775円
これに対して、銀行や証券会社の窓口ですすめられる投資信託は、年1〜2%のものが珍しくありません。年1.5%なら、100万円で年15,000円。オルカンのおよそ26倍です。
「たった1.5%」と思われるかもしれません。長期で見ると、こうなります。月3万円を30年間積み立て、どちらも同じ年5%で運用できたと仮定した場合の試算です。
| 信託報酬 | 30年後の資産 |
|---|---|
| 年0.05775%(オルカン) | 約2,470万円 |
| 年1.5%(一般的な投信) | 約1,906万円 |
差は564万円。中身も運用成績も同じで、手数料だけが違う場合の話です。これが、商品選びで手数料を最優先する理由です。
では、その「十分に手数料が安い商品」として何を買えばいいのか。ここからは、数ある低コスト商品の中でなぜこれなのかを書きます。
オルカンがいい理由は、予想しなくて済むこと
どの企業の株が上がるかを当てるのは、簡単ではありません。専門家でも外します。まして本業を持つ私たちが片手間にやれば、ギャンブルに近いものになります。
やっかいなのは、ときどき勝ってしまうことです。勝てば自分の判断が正しかったように思え、負ければ取り返そうとする。そうやって、値動きを見ている時間だけが増えていきます。
その点、オルカンが連動するMSCI ACWIという指数には、強い企業を自動で組み入れ、弱くなった企業を自動で外していく仕組みがあります。時価総額の大きい会社ほど比率が大きくなるので、市場に評価された企業が、勝手に上位へ入ってくるのです。銘柄を選ぶ判断が、まるごと要らなくなります。
この指数は先進国23カ国と新興国24カ国、合わせて47カ国で構成され、世界の株式時価総額のおよそ85%をカバーしています。これ1本で、世界経済のほぼ全体を持てるということです。
「オルカンといっても、中身の約6割はアメリカじゃないか」という指摘があります。事実その通りですが、これはアメリカに賭けているのではなく、いまの世界がそう評価している結果にすぎません。
1989年末の世界を思い出してください。当時は世界の時価総額トップ50社のうち32社が日本企業で、トップ5は日本企業が独占していました。もし当時この指数があったなら、日本の比率はいまよりずっと高かったはずです。
つまり、比率は勝手に入れ替わります。実際インドの比率は2020年の約0.9%から約2%へ倍増しました。アメリカが衰えて別の国が伸びれば、中身もそのように変わっていく。勝ち馬を選ぶ作業を、指数が自動でやってくれるということです。
なぜ「eMAXIS Slim」なのか
全世界株式に投資する商品は他にもあります。その中でオルカンを選ぶ理由は3つです。
① 「業界最低水準の運用コストを目指し続ける」という方針を掲げている
他社が値下げすれば追随する、と最初から宣言しているシリーズです。実際に何度も引き下げてきました。ずっと持ち続ける商品なので、「これから先も安くあろうとするか」は重要です。
② 純資産総額が約13兆7,800億円と、圧倒的に大きい
ここは見落とされがちですが、大事な点です。規模が小さい投資信託は、途中で運用をやめてしまうこと(繰上償還)があります。意図しないタイミングで強制的に現金化されると、積み立ての計画が崩れます。13兆円を超える規模なら、その心配はほぼありません。
③ 分配金を出さない
オルカンは分配金を出さず、利益をそのままファンドの内部で再投資します。分配金を受け取ると課税されますが、出さなければ税金を引かれずに複利が効き続けます。増やす段階の商品としては、これが有利に働きます。
いちばんの価値は、「何もしなくていい」こと
そして、私がオルカンを続けている最大の理由がこれです。やることが、何もない。
証券口座を作り、毎月の積立額を決めて、自動積立を設定する。そこまで済ませたら、あとは基本的に何もしません。銘柄を選ぶ必要も、買うタイミングを計る必要も、値動きを毎日見る必要もありません。
これは手抜きではなく、結果として成績が良くなりやすいやり方でもあります。下がったときに慌てて売る、上がったときに気が大きくなる——判断が挟まるほど、成績は崩れやすくなるからです。
投資について考えている時間は、人生を楽しむ時間から差し引かれています。
値動きが気になってアプリを何度も開く。次に何を買うか調べる。他人の成績を眺める。その時間は本来、家族と過ごす時間や、体を動かす時間や、好きなことをする時間だったはずのものです。
お金を増やすのは、人生を良くするためです。そのお金のことを考えるために人生の時間を使っていたら、順番が逆になります。仕組みを作って忘れられることには、リターン以上の価値があると思っています。
これ以上、安い商品を探す必要はない
いま、全世界株式の投信では信託報酬の引き下げ競争がほぼ終着点まで来ています。たとえば楽天・プラス・オールカントリー株式インデックス・ファンドは年0.0561%で、オルカンをわずかに下回ります。
ただ、その差は100万円あたり年17円です。
17円のために乗り換えると、むしろ損をする可能性があります。乗り換えは「売却」なので、利益が出ていれば課税されます。NISA口座なら、売った分の枠がその年のうちには戻らないこともあります。手間もかかります。
年1.5%と0.06%の差は本気で考える価値がありますが、0.0578%と0.0561%の差は、考えるだけ時間の無駄です。この段階まで来たら、商品を探す時間を、積み立てを続けることに回したほうがずっと効きます。
それでも、気をつけたいこと
最後に、注意点も書いておきます。
オルカンは株式100%の商品です。下がるときは、当然下がります。直近1年のリターンは+29.48%、5年では+142.34%と好調ですが(2026年7月末時点)、この数字が続く前提で計画を立てるのは危険です。むしろ調子がよい時期に始めた人ほど、最初の下落で驚くことになります。
また、円で買っていても中身は外国株なので、為替の影響を受けます。円高に振れれば、その分だけ評価額は下がります。
ですから、使う時期が近いお金は入れないこと。数年以内に必要になるお金や、生活防衛資金は現金で持っておく。この線引きだけは、商品選びより先に決めておいてください。
まとめ
- 将来のリターンは選べない。選べるのはコストと、続ける時間だけ
- オルカンの信託報酬は年0.05775%=100万円で年578円。年1.5%の商品なら年15,000円
- 同じ運用成績でも、手数料の差だけで30年後に564万円変わる(月3万円・年5%で試算)
- どの企業が伸びるかを当てるのはギャンブルに近い。指数なら強い企業を自動で組み入れ、弱った企業を自動で外す。47カ国・時価総額の約85%を1本で持てる
- 比率は自動で入れ替わる。1989年末は世界のトップ50社中32社が日本企業だった
- eMAXIS Slimを選ぶ理由は最低コストを目指す方針・約13.8兆円という規模・無分配の3点
- いちばんの価値は「何もしなくていい」こと。投資を考えている時間は、人生を楽しむ時間から差し引かれている
- これ以上安い商品を探す意味はない。他社との差は100万円で年17円。乗り換えは課税されることもある
- 株式100%で為替の影響も受ける。使う時期が近いお金は入れない
商品選びに何ヶ月も悩んでいる方をときどき見かけます。でも、悩んでいる間は1円も増えません。手数料が十分に低い全世界株式のインデックス投信を1本選んだら、あとは金額を決めて、自動積立にして、忘れる。それで十分だと思っています。
オルカンの具体的な買い方はオルカンって何?世界まるごと投資の魅力と買い方に、私が個別株からインデックスに落ち着くまでの話はほったらかし投資が最強な理由に書きました。
あなた自身が、あなたの人生を一番素敵にできる人です。
※本記事は2026年8月時点の個人の考えに基づく情報提供であり、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。信託報酬や純資産総額は変動します。投資判断の前に、必ず最新の目論見書をご確認ください。投資は自己責任のもとで行ってください。

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