35歳で463万円あれば、老後資金のことはもう考えなくていい

お金・投資

コーストFIREという言葉をご存じでしょうか。

FIREというと「早期リタイア」を思い浮かべる方が多いと思います。でもコーストFIREは、仕事を辞める話ではありません。老後資金の準備だけを先に終わらせて、あとは複利で育つのを待つという考え方です。

先日、「すでにコーストFIREを達成した」という方のブログを読みました。定年まで運用を続ければ、老後資金は2,000万円に届く計算だ——という内容です。

気になったので、自分でも調べて計算してみました。すると、いたってシンプルな話でした。年5%で40年運用すれば、284万円が2,000万円になります。つまり300万円を用意できていれば、老後2,000万円問題はその時点で終わっている計算です。

コーストFIREとは、「もう積み立てなくていい」状態のこと

コーストFIRE(Coast FIRE)の「コースト」は、惰性で進むという意味です。坂を上りきって、あとはペダルを漕がずに進んでいくイメージですね。

  • 老後資金の元本は、すでに用意できている
  • そこには手をつけず、複利で増えるのを待つだけ
  • 当面の生活費は、無理のない範囲で働いて稼ぐ
  • 老後のために取り置く必要がないので、稼いだ分は今の生活に使える

完全リタイアとの決定的な違いは、仕事を辞めないことです。辞めないから、生活費20年分・30年分といった巨額の資産は要りません。必要なのは「老後の分」だけ。だからハードルが一気に下がります。

では、なぜ284万円で足りるのか。年5%で運用できた場合、お金はおよそ14年で2倍になります(72÷5=14.4年。「72の法則」と呼ばれる目安です)。

284万円が、14年後には約560万円。28年後には約1,110万円。そして40年後に約2,000万円です。2倍になるのが3回起きるだけ——40年という時間は、それくらいの力を持っています。

この関係を逆から見て、「2,000万円にするには、いま何円あればいいか」を出したのが284万円という数字です。

あなたの年齢なら、いくら必要か

ただし、284万円という数字には前提があります。40年間運用できること——つまり25歳スタートの話です。ここを見落とすと、話が違ってきます。

65歳で2,000万円にするために、いま必要な元本を年齢別に出してみました。

今の年齢65歳までの年数必要な元本(年5%)
25歳40年284万円
30歳35年363万円
35歳30年463万円
40歳25年591万円
45歳20年754万円
50歳15年962万円
55歳10年1,228万円
年5%で運用できたと仮定した場合の概算(税・手数料は考慮していません)

始めるのが10年遅れるごとに、必要な元本がおよそ1.6倍になっていきます。複利は、時間に対して効くものだとよく分かる表ですよね。

ただ、注目したいのはむしろ45歳の754万円のほうです。小さくない額ですが、「もう手遅れ」という数字でもありません。老後まであと10年、55歳の1,228万円でも、ゴールは見えるところにあります。

そして、この元本をゼロから作る場合。月3万円の積立なら、約6年8か月で284万円に届きます(同じく年5%で運用できた場合)。月5万円なら4年3か月です。

ここが、コーストFIREのいちばん優しいところだと思います。一生積み立て続ける話ではなく、数年で終わらせる話だということです。毎月いくら捻出するかについては、私が月3万円を捻出するためにやめた5つのことに書きました。

「2,000万円」は、毎年動いている

ここで、目標にしている2,000万円という数字そのものについても触れておきます。あの数字は、固定されたものではありません。

総務省の家計調査(2025年)では、65歳以上の無職夫婦世帯の家計は毎月およそ4.2万円の赤字。30年分に換算すると約1,512万円です。今の時点では、2,000万円より少し小さい数字になります。

ただ、この先は増える方向に見えます。2026年度の年金額改定は、基礎年金が+1.9%、厚生年金が+2.0%。一方で前年の物価上昇率は+3.2%でした。物価の伸びに、年金が1.2ポイント届いていません。

これは制度の不具合ではなく、マクロ経済スライドという仕組みで意図的に抑えられている結果です。年金財政を持続させるため、あえて物価より低く抑える設計になっています。つまり不足額は、じわじわ広がっていく方向だということです。

「じゃあインフレを計算に入れないと意味がないのでは」と思われるかもしれません。私はそこまで神経質にならなくていいと思っています。40年も投資を続ける人が、途中でインフレに気づかないということはありません。数字が動いたら、そのつど積立額を足せばいい。大事なのは、動く数字だと知ったうえで目標を置くことです。航路は、途中でいくらでも変えられます。

いちばんの魅力は、稼いだお金を使えること

コーストFIREの本当の価値は、金額そのものではないと思っています。老後資金という一番大きな宿題が、先に終わっていることです。

老後の枠が閉じていれば、そのあとに入ってくる給料は今の人生に使えます。家族と旅行に行く、外食する、趣味にお金を回す——それを「将来のために我慢すべきでは」と考えなくて済むということです。

もちろん、車や住宅、子どもの教育費といった目的があるなら、その分は別に貯める必要があります。生活防衛資金を現金で持っておくことも変わりません。終わっているのは、あくまで「老後資金」の枠だけです。

それでも、この一枠が閉じている意味は大きいはずです。老後資金はゴールが遠すぎて、いくら貯めても不安が消えない種類のお金だからです。貯めること自体が目的になると、いざというときにも使えなくなります。

介護が来たとき、働き方を落とせる

ここからは、ケアマネジャーとして書いておきたいことです。

親の介護が現実になるのは、多くの場合40代から50代です。総務省の就業構造基本調査(2022年)では、介護や看護を理由に仕事を辞めた人は1年間で10.6万人最も多いのは50代で、その約8割が女性です。

介護は、突然フルタイムで働けなくなる出来事です。そのときに何が判断を狂わせるかというと、「ここで働き方を落としたら、老後の蓄えが作れなくなる」という恐怖です。

お金の不安は、選択肢そのものを削ります。使えるはずのサービスを減らす、施設を比べずに空いたところへ決める、家族が全部抱え込む。現場の肌感覚として、お金の不安を抱えたご家族ほど、選べる幅が狭くなっていきます。

老後資金の準備が終わっているということは、「今は親を優先する」と言える状態だということです。

時短勤務に変えても、転職して収入が下がっても、老後の分はもう複利が運んでくれている。これは介護離職を防ぐ実用的な防波堤になります。コーストFIREを「早期リタイアの一種」ではなく働き方を選べる状態を作る手段と捉えると、介護世代にこそ意味を持つ考え方ではないでしょうか。

介護費用そのものへの備え方は、私が民間の介護保険に入らない理由に書いています。

気をつけたい3つのこと

良いことばかり書いてきましたが、注意点もあります。ここを押さえずに始めると、計算が合わなくなります。

① NISA口座で持つことが前提です

284万円が40年で2,000万円になったとして、増えた分は約1,716万円。課税口座(特定口座)だと、ここに約20%の税金がかかります。手取りは約1,650万円まで下がり、2,000万円に届きません。非課税で持てるかどうかで、結論が変わってしまいます。

② 「達成したら忘れる」は少し危ない

年5%はあくまで長期にならした平均で、一直線に増えるわけではありません。特に怖いのは、使い始める直前に大きく下げることです。放置が基本ではありますが、年に1回は残高を見て、60歳が近づいたら少しずつ現金比率を上げる。取り崩し方の考え方はこちらの記事にまとめています。

③ 「働き続けられる」という前提が崩れることがある

これが一番大きいと思います。コーストFIREは「働かない」ではなく「無理のない範囲で働き続ける」ことが土台です。病気やケガ、あるいは自分の介護負担で、その前提が崩れることはあります。

だからこそ、傷病手当金・障害年金・介護休業給付金といった、働けなくなったときの制度は先に知っておいてください。老後資金だけを片づけて安心しきってしまうと、そこが盲点になります。

まとめ

  • コーストFIREは早期リタイアではなく、老後資金の準備だけを先に終わらせる考え方
  • 65歳で2,000万円にするための元本は、25歳なら284万円、35歳なら463万円、45歳なら754万円(年5%で運用できた場合)
  • ゼロから作る場合、月3万円の積立なら約6年8か月。一生続ける話ではない
  • 目標の2,000万円は毎年動く。年金の伸びが物価に届かない設計なので、気づいたら航路を変えればいい
  • 老後の枠が閉じていれば、そのあとの給料は今の人生に使える。ただし生活防衛資金や教育費は別に用意する
  • 介護は40〜50代に来る。老後資金が終わっていれば、働き方を落とすという選択ができる
  • 注意点は、NISAで持つこと・出口前の暴落・働けなくなるリスクの3つ

将来の不安がひとつ減ると、日々のストレスはずいぶん軽くなります。介護の相談を受けていても感じますが、お金の不安を抱えたままの選択は、本人にも家族にも良い形になりにくいものです。

老後のために今日を我慢し続けるのではなく、老後の分を先に片づけて、今日を楽しむ。今を楽しめている人は、その先も楽しめます。コーストFIREという考え方を知っておくだけでも、お金との付き合い方は変わるはずです。

あなた自身が、あなたの人生を一番素敵にできる人です。

参考:総務省統計局「家計調査」総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」厚生労働省(令和8年度の年金額改定)

※本記事は2026年8月時点の個人の考えに基づく情報提供であり、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。試算はあくまで一定の利回りを仮定した概算であり、将来の運用成果を保証するものではありません。投資は自己責任のもとで行ってください。

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