老後資金の話でよく出てくる「4%ルール」。資産の4%ずつ取り崩せば、30年間は持つという目安です。
ところが最近、このルールを考案した本人が「その数字は低すぎる。もっと使っていい」と言い始めました。
お金を貯める話ばかりが並ぶ中で、これはなかなか珍しい主張です。そして日本に住む私たちにこそ、刺さる話だと思いました。
4%が、4.7%に引き上げられた
4%ルールを考案した米国の研究者は、この数字を4.7%に更新しました。株式と債券を半分ずつという単純な組み合わせではなく、7つの資産クラスに分散したポートフォリオ(株式55%・債券40%・現金5%)で計算し直した結果です。
4%と4.7%。わずかな差に見えますが、金額にするとこうなります。
- 資産7,500万円 × 4.0% = 年300万円
- 資産7,500万円 × 4.7% = 年約353万円
年間53万円。月4万円以上はかなり余裕が生まれるのではないでしょうか。
しかも本人は、さらに踏み込んでいます。現在の市場環境なら5.5%のほうが現実的で、4.7%という数字ですら「歴史上最悪の事態に備えたい、超保守的な人向けのもの」だと述べています。4%のまま取り崩している人については、「少し自分を欺いている」という言い方までしています。
4%は、最悪の想定に耐えるための数字だった
ここは誤解されやすいところです。4%ルールは「ちょうどよく使い切る」ための数字ではありません。
過去のどんな時期に引退した人でも——大きな下落相場に当たっても、高インフレの時期に重なっても——資産が尽きないように設計された、いちばん厳しい前提の数字です。
ということは、最悪の時期に当たらなければ、お金は余ります。実際、別の研究では、4%で取り崩し続けた場合に30年後の資産がむしろ50%増えている可能性が示されています。減らすつもりで取り崩したのに、増えてしまうということです。
取り崩し方の基本については、老後の資産、どう取り崩す?にもまとめています。
貯めたのに、使えないまま終わる人がいる
そして、これがいちばん考えさせられる数字でした。
米国の研究機関の調査によると、80代半ばの退職者の約3分の1が、引退した時点と同じか、それ以上の資産を持ったままだったそうです。20年以上かけて、資産をほとんど減らしていないということになります。
4%ルールの考案者は、この状態をFOROM(fear of running out of money/お金が尽きることへの恐怖)と呼んでいます。
それが退職後の哲学を支配し、本来使えるよりもはるかに少ない支出しかしなくなる。長年にわたって貯蓄し、犠牲を払ってきたのだから、最大限の恩恵を受けられるべきだと私は思う。
貯めることには何十年も努力したのに、使うことには一度も慣れないまま終わる。これは、お金の失敗の中でもかなり切ないかたちだと思います。
日本の現場で多いのは、逆の不安
ここで、ケアマネジャーとしての実感も書いておきます。
米国の調査は「貯めすぎて使えない」でしたが、介護の相談で出会うのは、逆です。お金に不安を抱えているご家庭のほうが、はるかに多いのが実感です。
ただ、その不安の中身は、資産が足りないというより、見通しを立てていないことから来ているように思います。なんとなくお金の心配がある。無駄な出費にお金を使っているから足りなくなる。
そのうえで、言えることがあります。高齢になると、生活費以外のお金はかからなくなります。
- 通勤も、付き合いも、新しい服を買う機会も減る
- 大きな買い物をすることがなくなる
- 遠出や旅行も、体力とともに少なくなる
読めない支出といえば、入院費くらいでしょうか。それも高額療養費制度があるので、自己負担の上限は知れています(医療費350万円の入院で、実際に払う額はいくらかにまとめました)。介護費用も、公的介護保険の枠組みがあるので青天井にはなりません(介護費用、実際いくらかかるの?)。
つまり、老後にかかるお金は、思われているほど読めないものではありません。上限のある支出がほとんどで、しかも年齢とともに生活費以外は減っていく。ここを知らないまま「いくらかかるか分からない」と身構えていることが、不安の正体だと思います。
だからこそ、体がある程度動くうちにお金を使うことが大事だと思っています。
80代になってからでは、使いたくても使える体力がありません。旅行も、外食も、趣味も、元気なうちにしかできないことのほうが多いのです。「あとで使おう」と思っていた時間は、思っているより短いということです。
ただし、FIREにそのまま当てはめない
ここで、慎重に線を引いておきます。
4.7%も5.5%も、想定しているのは「30年間」の退職生活です。65歳から95歳までならこれで足ります。ですが40代でFIREして90歳まで生きるなら、40年、50年という長さになります。期間が延びれば、安全に引き出せる率は下がります。
別の調査会社の研究では、40年間なら最も高くても3.3%という結果も出ています。3.3%から5.5%まで、専門家の間でもこれだけ幅があるということです。
ですから、ひとつの数字を信じ込まないほうがいい。「4.7%に上がったから、その分たくさん使える」と単純に受け取るのは危険です。大事なのは率そのものより、自分の期間と、自分の前提で考えることです。早期リタイアを考えている方は、FIREとは?もあわせて読んでみてください。
不安を減らす道具は、すでにあります
では、どうすれば「使えないまま終わる」を避けられるのか。私は、不安の正体を数字に変えることだと思っています。
漠然とした不安は、いくら貯めても消えません。金額の問題ではなく、見通しがないことの問題だからです。
道具は2つあります。
ひとつは、ライフプランです。年ごとに収入・支出・資産残高を並べた表を作ると、「この年にいくらまでなら使っていいか」が見えます。不安が、具体的な金額に変わる。FIREしても、払うものはなくならないでも書きましたが、支出も収入も「いつ」が違うので、年表にしないと判断できません。
もうひとつが、コーストFIREの考え方です。老後資金の元本を先に用意してしまえば、あとは複利に任せられます。老後という一番大きな宿題が終わっていれば、今入ってくるお金は今の人生に使えます。詳しくは35歳で463万円あれば、老後資金のことはもう考えなくていいに書きました。
どちらも、「使っていい」と自分に許可を出すための道具です。貯めるためではなく、使うために作る。ここが大事なところだと思っています。
まとめ
- 4%ルールの考案者が、安全な取り崩し率を4.7%に更新。分散を効かせたポートフォリオで計算し直した結果
- 本人は「現在の市場環境なら5.5%が現実的」とし、4%のままの人は「自分を欺いている」とまで言っている
- 4%は最悪の時期に当たっても尽きないように設計された数字。そうでなければお金は余る
- 米国の調査では、80代半ばの約3分の1が引退時と同額以上の資産を保有したまま。貯めたのに使えていない
- ただし4.7%も5.5%も「30年」の話。40年なら3.3%という研究もある。ひとつの数字を信じ込まない
- 日本で多いのは「足りない」不安。ただし高齢期は生活費以外がかからなくなり、読めない支出は入院費くらいで上限もある
- 使えるようになるための道具はライフプランとコーストFIRE。漠然とした不安を、具体的な金額に変える
お金は、使うために貯めたはずです。使えるお金と、使える時間は、別々に減っていきます。お金だけが残って、時間のほうが先になくなる——それがいちばんもったいない結末ではないでしょうか。
今日使うお金と、将来のために置いておくお金。その線をどこに引くかは、残高ではなく見通しが決めてくれます。
※本記事は2026年8月時点の個人の考えに基づく情報提供であり、特定の金融商品への投資や取り崩し方を推奨するものではありません。紹介した取り崩し率は米国のデータに基づく研究であり、日本の税制・年金制度とは前提が異なります。投資は自己責任のもとで行ってください。

コメント