介護現場で使えるSBAR(エスバー)|医師・看護師・救急隊員に「伝わる報告」を身につける

介護の知識

「何か変なんですけど……えっと、昨日から食欲がなくて、あと顔色も悪くて、でも熱はそんなになくて……」——こんな報告、介護の現場でよく聞きますよね。情報は持っている。伝えようともしている。でも、聞いている医師や看護師には「で、何をしてほしいの?」となってしまうことがあります。

私はケアマネジャーとして、施設スタッフと医療職の橋渡し役をしてきました。その中で感じるのは、「情報の量」より「情報の整理」の方がはるかに大事だということです。今回ご紹介するSBARは、そのための実践的なツールです。

SBARとは何か——4つの要素で報告を整える(読み方:エスバー)

SBAR(エスバー)はもともと医療現場のコミュニケーションエラーを減らすために開発されたフレームワークです。4つの要素の頭文字を取っています。

  • S(Situation=状況):今、何が起きているか
  • B(Background=背景):これまでの経緯・既往歴など
  • A(Assessment=評価):自分はどう判断しているか
  • R(Recommendation=提案):何をしてほしいか・どう対応すべきか

この順番で話すだけで、相手が「いつ・何を・どう判断すべきか」を素早く把握できるようになります。

介護士の報告はなぜダラダラになるのか

誤解しないでほしいのですが、「ダラダラした報告」が悪いわけではありません。丁寧に細かく話してくれることは、それだけ利用者のことを気にかけている証拠です。日常の申し送りや、じっくり相談できる場面では、むしろ情報量が多い方がありがたいこともあります。

ただ、問題はTPO——時と場合によっては、長い報告が逆効果になることがあるということです。

忙しい時間帯の医師への電話。救急車を要請する場面。救急隊員への引き継ぎ。こういった場面では、「結論から・短く・明確に」が求められます。そのスキルを身につけることが、利用者を守ることにもつながるのです。

場面別・SBARの使い方

実際にどう使うか、場面ごとに例を挙げます。

【場面①】医師への電話報告

往診医や主治医に電話で状態変化を報告するとき。医師は外来・回診・処置と並行して電話を受けています。

S(状況):「○○施設の介護士△△です。入居者の山田さん(85歳・女性)が、30分前から意識がぼんやりしており、呼びかけへの反応が遅れています。」

B(背景):「山田さんは2型糖尿病で、今朝インスリンを打っています。昼食は半分しか召し上がれませんでした。」

A(評価):「低血糖の可能性があると思っています。血糖を測定したところ52mg/dLでした。」

R(提案):「ブドウ糖を投与してよいでしょうか。また、受診や救急搬送が必要かご判断をお願いします。」

これだけで医師は状況・背景・現在の数値・求めていることをすべて把握できます。「で、熱は何度ですか?」「いつから?」といった確認の往復が大幅に減ります。

【場面②】救急車要請時(119番通報)

救急通報では、オペレーターが情報を整理しながら指示を出してくれますが、こちら側が整理できていると通報がスムーズになります。

S:「介護施設から要請します。80代女性が突然の激しい頭痛を訴え、右半身が動かせない状態です。」

B:「高血圧と心房細動の既往があり、抗凝固薬を服用しています。10分前に突然発症しました。」

A:「脳卒中の疑いがあると判断しています。」

R:「至急搬送をお願いします。施設の住所は〇〇です。」

「脳卒中疑い」という言葉を出すことで、救急隊も受け入れ病院の選定を脳卒中対応が可能な施設に絞ることができます。

【場面③】救急隊員への引き継ぎ

救急隊員が到着したとき、興奮・焦りの中での引き継ぎになりがちです。SBARの流れを頭に入れておくと、冷静に伝えられます。

S:「ただいまの状態は意識レベル低下、JCS10です。呼びかけに開眼しますが、発語は不明瞭です。」

B:「85歳男性、認知症・高血圧・心疾患あり。お薬手帳はこちらです。本日の食事・排泄・バイタルはこのメモにまとめました。」

A:「1時間前から急に元気がなくなり、意識レベルが低下しました。発熱(38.5℃)もあります。」

R:「感染症や脳血管疾患を疑っています。家族への連絡はこれから行います。」

お薬手帳・バイタル記録をあらかじめまとめておくと、引き継ぎがさらにスムーズになります。「救急バッグ」として必要書類をまとめておく施設も増えています。

SBARを身につけるための練習方法

SBARは知っているだけでは使えません。実際の場面で咄嗟に出てくるよう、練習が必要です。

  • 日常の申し送りで練習する:「S・B・A・Rの順に話す」を毎日の申し送りで意識するだけで、自然と身についていきます
  • 事例でロールプレイする:施設内研修で「この状況をSBARで報告してみて」という練習は非常に効果的です
  • メモを用意しておく:緊急時のために「SBARメモシート」を用意しておき、その場で書き込みながら報告する方法もあります
  • 振り返りに使う:救急要請後に「あの時SBARで言えたか?」を振り返ることで上達します

まとめ

  • SBARは「状況・背景・評価・提案」の4ステップで報告を整えるフレームワーク
  • 介護士の丁寧な報告は大切だが、緊急時・忙しい場面ではTPOに合わせた簡潔な報告が必要
  • 医師への電話・119番通報・救急隊員への引き継ぎ、どの場面でも使える
  • 「何をしてほしいか(R)」を明確にすることが、医療職を動かすカギ
  • 日常の申し送りから練習することで、緊急時にも自然と使えるようになる

SBARは難しい技術ではありません。ただ、知っているかどうかで、緊急時の対応力に大きな差が生まれます。利用者の命を守るコミュニケーション力として、ぜひ現場で一つひとつ身につけていってほしいと思います。あなた自身が、あなたの人生を一番素敵にできる人です。

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