「座りすぎはタバコより体に悪い」という言い方を聞いたことがあると思います。
大げさに聞こえるかもしれません。ですが数字を見ると、大げさではありませんでした。そして日本人が座っている時間は、世界で最も長いのです。
ただ、問題は「合計で何時間座ったか」ではありません。そして原因をたどっていくと、糖尿病が増えている理由と、まったく同じところに行き着きます。
悪いのは「座り続けること」です
まず、ここをはっきりさせておきます。
一日中ずっと座りっぱなし、という人はほとんどいません。トイレにも立つし、食事もします。問題になるのは合計時間そのものより、途切れずに座り続けている時間の長さのほうです。
これを示した実験があります。5時間座り続けてもらう条件と、20分ごとに2分だけ歩いてもらう条件を比べたものです。
2分歩きをはさむだけで、食後の血糖値とインスリンの反応が改善しました。
たった2分です。運動と呼べるようなものではありません。それでも体の反応は変わります。
逆に言えば、長く座り続けることはインスリンの効きを悪くし、2型糖尿病につながっていくということです。座りすぎの話は、実は血糖の話でもありました。
日本人は世界一長く座っています
シドニー大学などが20か国を対象に行った調査で、日本人の成人が平日に座っている時間は1日420分=7時間。20か国中で最長でした。スポーツ庁もこの数字を挙げて注意を促しています。
そして100万人を超えるデータをまとめた分析(2016年・ランセット誌)では、最も体を動かしていないグループは、最も活動的なグループと比べて死亡リスクが28〜59%高いという結果でした。
この水準は、喫煙や肥満のリスクに匹敵します。「タバコに匹敵する」というのは、誇張ではなかったということです。
ただし同じ分析は、救いも示していました。
1日60〜75分ほどの中強度の身体活動があれば、長く座ることによる死亡リスクの増加は、ほぼ消える。
座る時間をゼロにする必要はありません。しっかり歩いている人なら、その分は帳消しにできるということです。
狩猟採集民も、1日10時間座っていました
ここで、意外な研究を紹介します。アフリカの狩猟採集民ハッザの人たちを調べたものです。
ハッザの人たちも、1日10時間近くを座って過ごしていました。オランダやアメリカの人たちと、ほぼ同じ長さです。
原始的な暮らしをしている人たちが、現代人と同じくらい座っている。座ること自体は、人間にとって不自然ではないということです。
違ったのは、動くときの中身でした。ハッザの男性は1日およそ14キロ、女性はおよそ9.5キロ歩いています。しかもそれは運動ではありません。水を汲みに行き、食べ物を探し、家に戻る。生活そのものが移動だっただけです。
座る。歩く。また座る。その繰り返しが、人間の標準的な一日でした。
体は変わっていないのに、環境だけが変わりました
ここが、この記事でいちばん伝えたいことです。
人類が農耕を始めたのは1万年ほど前。車で移動し、座って働き、家の中で用が足りるようになったのは、ほんの数十年の話です。体の仕組みは、そこに追いついていません。
私たちの体は、いまも「毎日それなりに歩く」前提で作られています。ところが現代では、歩かなくても生活が成り立ちます。買い物は車で、仕事は座って、連絡は手元で済む。便利になったぶん、体が当てにしていた移動が、生活から抜け落ちました。
そして、まったく同じことが食事でも起きています。
かつて糖分は、簡単に手に入るものではありませんでした。だから人の体は「甘いものがあれば、取れるだけ取っておく」ようにできています。それが生き延びる方法だったからです。
ところが今は、コンビニに行けば手に入ります。体は「めったに手に入らない前提」のままなのに、環境のほうが先に変わってしまった。糖尿病が増えているのは、そういうことだと思います。
座りすぎも、糖尿病も、原因は同じところにあります。体は変わっていないのに、環境だけが発展してしまったことです。
体は、悪いことをしているつもりがありません。座れるなら座る。取れるなら取る。それは何万年もかけて身につけた、正しい仕組みです。ただ、その正しさが通用しない環境に、私たちが先に来てしまった。
だから、意識して埋め戻すしかありません。足りなくなったのは、意志の力ではなく、生活の中にあった「歩く用事」のほうです。
まとまった運動より、隙間で歩く
1日60〜75分と聞くと多く感じますが、これは「運動」である必要がありません。中強度とは、少し息が上がるが会話はできるくらいの強さです。まとめて確保する必要もありません。
現実的なのは、生活のなかに歩く用事を戻すことです。
- ひとつ手前の駅やバス停で降りる
- 駐車場は、入口から遠いところに停める
- コピーやお茶は、わざわざ遠いほうへ取りに行く
- 電話が来たら、立って歩きながら話す
- 用がなくても、1時間に一度は建物の中を一周する
- 階段を使う。買い物は少し遠い店まで歩く
どれも数分です。ですが1日に10回あれば、それだけで30分を超えます。着替えも道具もいりません。「運動の時間を作る」より「歩く用事を増やす」ほうが、はるかに続きます。
スマートウォッチや活動量計に「そろそろ立ちましょう」と知らせる機能がついているのは、まさにこのためです。1時間座り続けたら通知が出る。あれは気休めではなく、座り続けることを切るという、研究にもとづいた設計です。
歩くことの効果については、ウォーキングと認知症の記事にもまとめています。
高齢になるほど、動かない時間は早く効いてきます
ここからは、現場から感じることです。
高齢の方の生活を見せていただくと、一日のほとんどを椅子やベッドで過ごしていることが珍しくありません。朝起きてテレビの前に座り、食事のときだけ動き、また座る。外に出る用事がなければ、それで一日が終わります。
そして高齢になるほど、使わない機能は早く落ちます。数週間動かないだけで立ち上がりが重くなり、立てなくなると外に出なくなり、さらに動かなくなる。この流れは、思っているより速く進みます。
ですから必要なのは、運動の指導よりも「動く理由」を用意することだと考えています。
- デイサービスに通う日を作る
- 買い物や通院を、自分で行く用事として残す
- 植木の水やり、洗濯物たたみなど、家の中の役割を持つ
- 人と会う予定を入れる
「運動しましょう」と言われて続く人は多くありません。ですが、行く場所があり、待っている人がいれば、体は自然と動きます。つながりの記事でも書きましたが、外に出る理由があるかどうかは、健康にそのまま効いてきます。
まとめ
- 問題は合計時間より「途切れずに座り続けること」。20分ごとに2分歩くだけで、食後の血糖とインスリンの反応が改善した
- 長く座り続けることはインスリンの効きを悪くし、2型糖尿病につながる
- 日本人の座位時間は7時間で20か国中最長。最も動かない人は死亡リスクが28〜59%高く、喫煙に匹敵する
- ただし1日60〜75分の中強度の活動があれば、座位によるリスク増はほぼ消える
- 狩猟採集民も1日10時間座っていた。違いは歩く量で、男性は約14キロ。座ることは不自然ではなく、歩かないことが不自然
- 座りすぎも糖尿病も、原因は同じ。体は変わらないのに、環境だけが発展した
- だからまとまった運動より、隙間で歩く。1日10回の数分で30分を超える
- 高齢者には運動の指導より「動く理由」を用意するほうが続く
意志が弱いから座ってしまうのでも、我慢が足りないから食べてしまうのでもありません。体はずっと正しく働いています。変わったのは、私たちのまわりのほうです。
だとすれば、やることは根性を出すことではなく、抜け落ちた「歩く用事」を、生活に少しずつ戻すことです。ひとつ手前で降りる。遠いほうに停める。それだけで、体は本来の使われ方に近づきます。
あなた自身が、あなたの人生を一番素敵にできる人です。
参考:スポーツ庁「日本人の座位時間は世界最長」/Ekelund U, et al.(The Lancet, 2016)/座位中断と食後血糖に関する研究(Dunstan DW, et al.)/狩猟採集民ハッザの身体活動に関する研究
※本記事は2026年9月時点の情報に基づく個人の考えです。持病のある方や、運動を始めるにあたって不安のある方は、主治医にご相談ください。

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