自動車保険の更新はがきを見て、「高いな」と思ったことはありませんか。
ただ、いざ見直そうとしても、どの項目を削っていいのか分かりません。保険なので、削って困ることになるのも怖い。結局そのまま更新する——よくある流れだと思います。
結論から書きます。削るとしたら車両保険です。そして絶対に削ってはいけないのが、対人賠償と対物賠償です。
その理由を、数字で見ていきます。
自動車保険は、2つに分かれている
まず整理します。任意の自動車保険は、大きく「他人への賠償」と「自分の車や身体」に分かれます。
- 対人賠償——他人を死傷させたときの賠償
- 対物賠償——他人の車や建物、物を壊したときの賠償
- 人身傷害・搭乗者傷害——自分や同乗者のケガ
- 車両保険——自分の車の修理代
このうち車両保険だけが「自分の財布の問題」です。ほかは、他人の人生や自分の身体に関わります。ここが判断の分かれ目になります。
対人・対物は「無制限」以外にない
賠償がどこまで膨らむのか。実際の判決を見てください。
人身事故の賠償額の最高は、5億2,853万円(2011年11月1日・横浜地裁)。
被害者が若く、収入が高く、脳に損傷を受けて長期の介護が必要になった——そうした条件が重なると、賠償額はこの水準まで届きます。
そして見落とされやすいのが対物賠償です。「物なんて、たかが知れている」と思われがちですが、店舗に突っ込んで営業できなくなった、積荷を全部だめにした——こうしたケースでは億単位の判決が出ています。
それでも対物に上限を設けている契約は、少なくありません。ですが——
対物賠償を「無制限」にするか、そのひとつ下の金額ランクにするかで、年間保険料の差は数百円です。
年に数百円で、億単位のリスクを消せる。ここを削る理由は、私には見つかりません。対人・対物はどちらも無制限。まずこれを確認してください。
保険は、人生が壊れることにだけ使う
ここで、保険そのものの考え方を書いておきます。私はこう考えています。
保険は、起きたら人生が破綻するようなことに備えるもの。自分のお金で払える範囲のことは、貯金で備える。
この基準で見ると、判断はかなりはっきりします。
5億円の賠償は、貯金では絶対に払えません。働いても、家を売っても届かない。だから保険で移すしかない。これが保険の本来の役割です。
一方、自分の車の修理代はどうでしょうか。数万円から、高くても車1台分。痛い出費ではありますが、人生は壊れません。
同じ考え方は、ほかの保険にも当てはまります。医療費は高額療養費という上限があるから民間の医療保険を優先しない。介護費用も公的介護保険という土台があるから自分で備える。判断の軸は、いつも同じです。
車両保険は、いくら受け取れるのか
ここは誤解が多いところです。新車で買った価格が戻ってくるわけではありません。
車両保険の上限は「協定保険価額」という金額で決まります。これは契約するときに、同じ車種・型式・初度登録年月の車が、いま市場でいくらで売られているかをもとに設定されるものです。つまり中古車としての時価です。
- 全損のとき——協定保険価額がそのまま支払われます。それが上限です
- 修理で直るとき——実際の修理費から免責金額(自己負担額)を引いた額が支払われます
- 更新のたびに、この金額は下がっていきます。市場価格が下がるためです
ここが重要です。300万円で買った車が5年後に全損しても、受け取れるのはその時点の時価まで。同じ車を新しく買い直せる金額にはなりません。
「車両保険に入っているから、事故っても大丈夫」は正確ではないということです。年数が経つほど、受け取れる額は小さくなっていきます。
車両保険を付けるかどうかの基準
判断の基準は、ひとつだけでいいと思います。
いま車が全損しても、自分のお金で次の車を用意できるか。
用意できるなら、車両保険は要りません。用意できないなら、付ける意味があります。ローンが残っている場合も同じで、車を失ったうえに返済だけ残る状況は避けたいところです。
ただし、ここでもう一段考えてほしいことがあります。
買い替える余力がまったくないのなら、そもそも車を持つ段階ではないのかもしれません。車は買って終わりではなく、税金・車検・保険・燃料・修理が毎年かかります。全損に備えられないほど余裕がないなら、新車ではなく中古車にする、あるいは持たないという選択のほうが、家計としては健全です。
入っていても、小さな事故では使わないほうが得
車両保険には、少し奇妙な性質があります。入っていても、簡単には使えないのです。
車両保険を使うと、多くの場合3等級ダウンになります。さらに翌年から3年間「事故有係数」が適用され、割引率が下がります。保険料の上がり方は、その3年間ずっと続くということです。
そのため、修理費によって損得が変わります。
- 10万円くらいまで——自分で払ったほうが得なことが多い
- 10万〜50万円——保険料の上がり幅と、あと何年その車に乗るかで判断
- 50万円以上——保険を使ったほうが得なことが多い
つまり車両保険は、小さな傷のためのものではありません。「擦ったから使おう」と考えていると、かえって損をします。大きな損害のときだけ使う——そう割り切るなら、免責金額を高めに設定して保険料を下げる手もあります。
ちなみに車両保険を付けている人は、一般型が38.7%、補償範囲を絞ったエコノミー型が16.3%です(2025年12月時点の調査)。4割以上の人は、そもそも付けていません。
そもそも、その車は必要ですか
保険料を見直すより、効く方法があります。車を持たないことです。
毎日乗るなら別ですが、週に1〜2回しか乗らないのであれば、公共交通機関、タクシー、レンタカー、カーシェアを組み合わせたほうが安く済むことがあります。保険料も車検も駐車場代も、まるごと消えます。
そしてもうひとつ。ここは介護の現場から強く書いておきたいことです。
「車がないと買い物に行けない」——本当にそうでしょうか。
高齢の方から、必ずと言っていいほど聞く言葉です。気持ちは分かります。ですが、手段はいくつもあります。
- 歩く——近所への買い物は、それ自体が運動になります。歩ける距離を保つことは、そのまま介護予防です
- 電動カート(シニアカー)——運転免許は要らず、歩道を走れます。介護保険の福祉用具貸与の対象で、原則として要介護2以上なら1割負担で借りられます。月32,000円のものなら、自己負担は月3,200円です
- 移動販売・宅配——地域を回る移動スーパーや、生協・ネットスーパーの配達
- 自治体のコミュニティバス、乗合タクシー——地域によって仕組みがあります
電動カートの利用はケアプランへの記載が必要なので、担当のケアマネジャーに相談してください。
そして、いちばん伝えたいことです。運転をやめる判断は、何かが起きてからでは遅すぎます。
アクセルとブレーキの踏み間違いは、店舗や人の列に突っ込む形になりやすい事故です。加害者になれば、先ほどの億単位の賠償が現実になります。金額の問題だけではありません。その後の人生と、家族の生活が変わってしまいます。
買い物の手段は、あとから用意できます。起こしてしまった事故は、取り消せません。
まとめ
- 対人・対物は無制限が絶対。人身の最高判決は5億2,853万円、対物も億単位の例がある
- 対物を無制限にする追加費用は年数百円。削る理由がない
- 保険の考え方は「起きたら人生が破綻することに備える。自分で払える範囲は貯金で」
- 車両保険の上限は協定保険価額=中古車としての時価。新車価格は戻らず、更新のたびに下がる
- 付けるかどうかの基準は「全損しても自分で次の車を用意できるか」。できないなら、そもそも持つ段階か考え直す
- 使うと3等級ダウン+3年間の事故有係数。10万円程度までは自己負担のほうが得なことが多い
- 週1〜2回しか乗らないなら公共交通・レンタカー・カーシェアのほうが安い場合がある
- 「車がないと買い物に行けない」は思い込みのことも。歩く・電動カート・移動販売・コミュニティバスという手段がある
保険は、お守りです。お守りは、本当に困ることのために持つものであって、擦り傷のために持つものではありません。
更新のはがきが届いたら、まず対人・対物が無制限かを確認してください。そこさえ守れていれば、あとは自分の家計に合わせて調整できます。
※本記事は2026年9月時点の情報に基づく個人の考えであり、特定の保険商品への加入・解約を推奨するものではありません。補償内容・保険料・等級の扱いは保険会社や契約条件によって異なります。詳細は加入している保険会社・代理店にご確認ください。福祉用具貸与の対象要件は、お住まいの市区町村や担当のケアマネジャーにご相談ください。

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