自分は凡人だ。そう気づいたのは、いつだったでしょうか。
勉強でも仕事でも、上には上がいます。才能に恵まれた人、早くから始めて長い時間をかけてきた人。そういう人たちと同じことをして、同じように勝とうとしても、なかなか勝てません。
ですが、勝てないからといって、あきらめる必要はありません。凡人には、凡人の戦い方があります。この記事では、それを「戦う場所を選ぶ」「毎日を積み上げる」「土台を守る」の3つに分けて考えます。
凡人だと知ることは、賢さ
1本目の記事「『足るを知る』は、あきらめることじゃない」で、『老子』の一節を紹介しました。その中に、こんな言葉があります。
人を知る者は智なり。自ら知る者は明なり。
他人を知るのは知恵だが、自分を知ることこそ本当の賢さだ、という意味です。自分は凡人だと認めることは、負けを認めることではありません。自分を正しく知ったから、戦い方を選べるようになるということです。
ただし、気をつけたいことがあります。「自分は凡人だから」は、やらない言い訳にもなるということです。3本目の記事「すぐやる人と、取りかかれない人の差は『意志の強さ』じゃない」で書いたように、人は失敗する前に言い訳を用意してしまいがちです。凡人という言葉は、あきらめる理由ではなく、戦い方を決める出発点として使います。
出発点は、はっきりしています。どんなことも、時間をかけてきた熟練者には、なかなか勝てません。後から始めた人が同じ土俵で勝とうとすれば、相手が積み上げてきた時間を追いかけ続けることになります。しかも、追いかけている間に、相手もまた先へ進みます。だから、凡人は同じ土俵で勝とうとしないのです。
1.戦う場所を選ぶ
得意なことで勝負する
苦手なことを人並みにする努力より、得意なことを伸ばす努力のほうが、凡人にはずっと効率がいい。勝負するのは、得意なことだけでいいのです。
理想は、やりたくてやりたくて、楽しくて仕方がないことです。ご飯を食べるのも、寝るのも後回しにしてしまうくらい夢中になれること。それが仕事になるように、少しずつ寄せていく。好きなことなら言われなくても続き、続けられることは、それだけで熟練者との差を縮めていきます。
一つ補足しておきたいのは、得意なことは、やってみるまで分からないことが多いということです。最初から自分の得意を知っている人はあまりいません。始めたばかりのころは、いろいろ試してみる時期があっていいと思います。また、お金の基本や体の健康のように、苦手でも外せないことはあります。得意なことだけをやるというのは、勝負する場所を選ぶときの話です。
一つで一番を目指さず、掛け合わせる
一つの分野で一番になるのは、凡人にはとても難しいことです。ですが、「そこそこ得意なこと」を2つ、3つと掛け合わせると、話が変わります。
たとえば、100人に1人くらいの得意なことを3つ持っていれば、その3つを同時に持つ人は、100×100×100で、計算の上では100万人に1人になります。一つひとつは突き抜けていなくても、組み合わせれば、代わりのいない存在になれるのです。
このブログも、その考え方で書いています。介護の仕事をしている人はたくさんいます。お金について発信している人も、AIを使いこなしている人もたくさんいます。ですが、ケアマネジャーとして介護の現場にいながら、お金とAIのことも書いている人となると、ぐっと少なくなります。
成果を出しやすい環境を選ぶ
3本目の記事で、すぐやる人と取りかかれない人の差は意志の強さではない、と書きました。凡人ほど、意志より環境に左右されます。私は、凡人の戦い方の中で一番見落とされやすいのが、この環境選びだと思っています。
同じ努力をしても、それが評価される職場と、されない職場があります。周りに学び続ける人がいる職場と、いない職場があります。どこで、誰と働くかで、伸び方は大きく変わります。
介護の仕事でいえば、研修や資格の取得を応援してくれる事業所かどうか。国の処遇改善加算に取り組み、役職や賃金の仕組み、研修の計画を整えている事業所かどうか。それだけでも、数年後の自分は違ってきます。
職場を変えるのが難しければ、身近な環境からで十分です。取りかかる机の上を片付ける。付き合う人を少し選ぶ。スマホの通知を減らす。環境を整えることは、意志の力に頼らない、凡人のための工夫です。
2.毎日を積み上げる
毎日コツコツ続ける
凡人が熟練者に近づける、ほぼ唯一の方法が、続けることです。4本目の記事「継続するだけで、人より優れている」で書いたように、毎日0.1%の成長でも、10年続ければ約38倍になります。実際の成長はこの計算どおりにはいきませんが、多くの人が途中でやめていく中で、続ける人は、それだけで前に出ます。
ポイントは、頑張りすぎないことと、休んでも戻ってくることです。1日5分、本を開く。運動靴を履いて外に出る。それくらい小さくていいのです。
本を読む
凡人ができる投資の中で、一番安くて効果が大きいのは、本を読むことだと思います。
本には、書いた人が長い時間をかけて手に入れた知識や経験が詰まっています。それを、数時間で受け取ることができます。値段は1冊千数百円ほど。図書館で借りれば、タダです。お金をかけずにできる、最大の自己投資です。
しかも、本を読む人は多くありません。文化庁の調査(令和5年度「国語に関する世論調査」)では、1か月に本を1冊も読まない人が62.6%でした。前回の調査から、約15ポイント増えています。月に1冊読むだけで、読まない6割の人とは違う場所に立てるのです。
読んだあとは、一言でいいので、書くか、人に話してみてください。覚えたことは、読み返すより思い出そうとするほうが記憶に残りやすいことが、学習の研究で分かっています。読んで、思い出して、使う。これで、読書が本当の投資になります。
お金の使い方を変える
凡人が収入で勝負するのは、簡単ではありません。ですが、お金の使い方は、今日から誰でも変えられます。
お手本にしたいのは、お金持ちの行動です。といっても、高い物を買って見せびらかす成金のことではありません。お金を長く上手に育てている人の、地味な習慣のことです。
- 証券口座を持つ:給料だけに頼らず、お金にも働いてもらう入り口を作る
- 不用品を買わない:安いから、みんなが持っているから、では買わない
- 価値のあるものを買う:長く使えるもの、自分を成長させてくれるものには、お金を惜しまない
- 人のためにお金を使う:家族や周りの人の喜ぶことに使う
最後の「人のためにお金を使う」には、心理学の裏づけもあります。お金を渡して「自分のために使う人」と「人のために使う人」に分けた実験では、人のために使った人のほうが、幸福感が高かったのです。金額が小さくても、同じ結果でした。
そして、お金もまた、時間をかければ複利で育っていきます。このことは、次の記事で詳しく書きます。
3.土台を守る
生活リズムを整える
ここまでのことは、すべて、心と体が元気であってこそできることです。生活リズムは、ほかのすべてを支える土台です。
介護の仕事は、夜勤や早番・遅番など、生活リズムが乱れやすい仕事です。睡眠が削られると、集中力もやる気も落ち、続けてきたことが止まってしまいます。4本目の記事でも書いたように、一度止まると、元に戻るまでには時間がかかります。
国の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人は6時間以上を目安に、必要な睡眠時間を確保するよう勧めています。勉強や副業の時間を作るために、睡眠を削るのは逆効果です。まずは寝る時間を確保し、そのうえで、残りの時間をどう使うかを考えます。
自分を大事に扱う
凡人として生きてきた人は、多かれ少なかれ、コンプレックスを抱えてきたと思います。思うようにできない悔しさ。人と比べられるつらさ。そのせいで、つい自分に厳しくなりすぎてしまいます。
ですが、自分を責めても、前には進めません。4本目の記事で紹介したように、先延ばしをした自分を許せた人ほど、次はきちんと取り組めていたという研究もあります。うまくいかない日があっても、自分を責めずに、また始めればいいのです。
そして、コンプレックスは弱みではありません。同じように悩む人の気持ちがわかるという、大きな長所です。何でも最初からうまくできた人には、うまくできない人の気持ちは、なかなかわかりません。
介護の仕事で大切なのは、相手の気持ちを慮ることです。体が思うように動かない人、できていたことができなくなった人、その家族。その気持ちに寄り添えるのは、自分も「できない」を知っている人です。自分の弱さを知り、自分を大事にできる人は、人のことも大事にできます。それは、凡人だからこそ持てる強みです。
このシリーズで、たどってきたこと
凡人の戦い方は、才能ではなく、小さなことの積み重ねでできています。このシリーズで書いてきたことを振り返ると、次のようになります。
- 足るを知る:他人の物差しではなく、自分の物差しを持つ
- 目標の立て方:今日の行動を変える目標を立て、バージョンアップし続ける
- すぐやる:不安が消えるのを待たずに、小さな締め切りで動き出す
- 継続:小さく続け、休んでも戻ってくる
どれも、才能がなくてもできることです。そして、どれも続けるほど、複利で効いてきます。
まとめ
凡人の戦い方
戦う場所を選ぶ:得意なことで勝負し、そこそこの得意を掛け合わせ、成果を出しやすい環境に身を置く。
毎日を積み上げる:小さく続ける。本を読む。お金の使い方を変える。
土台を守る:睡眠と生活リズムを整え、自分を大事に扱う。
凡人だと知ることは、終わりではなく始まりです。次の記事は、このシリーズの最後です。成長の複利の話から、お金の複利の話へ進みます。テーマは、「金利を味方にするか、敵にするか」です。


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