「そのとき」は突然きます——親と、そして自分のために始めるACP(人生会議)

介護の知識

もし明日、あなたのお父さんやお母さんが突然倒れて、話せなくなったら——。延命治療を続けるのか、どこで療養するのか、あなたは即答できるでしょうか。

「縁起でもない」と思ったかもしれません。でも、高齢者は突然倒れます。急に体調が悪くなります。気づいたら認知症が始まっていることもあります。そして、本人が自分の希望を言えなくなってから、家族は重い決断を迫られるのです。今回は、そうなる前に始めておきたいACP(人生会議)についてお話しします。

医師が決める時代から、みんなで決める時代へ

少し前まで、医療の場ではインフォームドコンセントが中心でした。医師が治療方針を決め、それを患者や家族に説明して同意を得る、という形です。

でも今は、共同意思決定(SDM)——本人・家族・医師・看護師・ケアマネジャー・施設の職員など、関係者みんなで一緒に最善を探すという考え方が大切にされています。

なぜ変わったのか。理由はシンプルで、「何が一番いいか、誰にもわからない」からです。延命治療が正解の人もいれば、穏やかに過ごすことを望む人もいる。正解が一つではないからこそ、一人で決めるのではなく、みんなで話し合って、その人にとっての最善を見つけていくのです。

ACP(人生会議)とは——「決めること」より「話しておくこと」

ACP(アドバンス・ケア・プランニング/愛称「人生会議」)とは、もしものときにどんな医療やケアを望むかを、前もって本人・家族・専門職で話し合っておく取り組みです。厚生労働省も「人生会議」として普及を進めています。

ここで大切なのは、完璧に決めることがゴールではないということです。むしろ、話しておくというプロセスそのものに意味があります。そして——一度決めたことが、あとで変わっても構いません。人の気持ちは変わるものです。お金の使い道が変わるのと同じように、医療やケアの希望も、その時々で見直していい。だからこそ、身構えずに何度でも話せる関係づくりが大切なのです。

話し合っていないと、残された家族が苦しむ

本人の希望がわからないまま「そのとき」を迎えると、何が起こるか。ケアマネとして、私はその難しさを何度も感じてきました。

  • 家族が決断を背負う:「本人はどうしたかったんだろう」と手がかりのないまま、命に関わる選択を迫られます。
  • 家族の間で意見が割れる:「できる限りの治療を」「本人は望まないはず」——きょうだいで対立し、関係にしこりが残ることもあります。
  • 「これでよかったのか」が一生残る:どんな選択をしても、後から「あれでよかったのか」と悩み続ける方は少なくありません。

話し合っておくことは、本人のためだけではありません。残される家族が、揉めず、後悔せずにすむための備えでもあるのです。

「ピンピンコロリ」は、幻想です

ここで、正直にお伝えしたいことがあります。多くの人が願う「ピンピンコロリ(元気なまま、ある日ころっと逝く)」は、現実にはめったに起こりません

実際には、人は徐々に老いていきます。できないことが少しずつ増え、支えが必要になり、最期を迎える。それが自然な姿です。だからこそ、「元気なうちに考えるなんて縁起でもない」ではなく、元気なうちにしか考えられない、と捉えてほしいのです。

「長生きしてほしいから」と、あらゆる治療を望むご家族はとても多いです。その気持ちは尊いものです。でも、ひとつだけ考えてみてください。意識もなく、たくさんの管につながれた状態——それは、本当にご本人が望んでいた姿でしょうか。長さだけでなく、その人らしい時間を大切にする、という視点も、どうか忘れないでほしいのです。

親から、家族が揉めないように準備してあげる

この話、子どもの側からは切り出しにくいものです。「早く死んでほしいの?」と受け取られるのが怖くて、なかなか聞けません。

だからこそ、親の側から準備しておくことが、家族への何よりの思いやりになります。医療の方針も、お金のことも、「自分にもしものことがあったら」を、元気なうちに家族に伝えておく。それだけで、残された家族が揉めず、迷わずにすみます。

お金の話も同じで、普段から何気なく話せる関係があるかどうかが大きな差になります。かしこまった「家族会議」でなくていいんです。食卓で、お茶を飲みながら、「もしものときはこうしてほしい」と軽く口にしておく。その積み重ねが、いざというときに効いてきます。

今日からできる、小さな第一歩

  • 家族と何気なく話す:テレビの闘病番組などをきっかけに「私はこう思う」と軽く伝えてみる。
  • エンディングノートを書いてみる:医療の希望、お金、連絡してほしい人などを書き留めておく。何度書き直してもOK。
  • かかりつけ医やケアマネに伝えておく:専門職が希望を把握していると、いざというとき力になります。

こうした準備は、療養場所や治療の選択を通じて、結果的にお金の備えにもつながります。「もしものとき」に慌てないために、医療費や施設費の考え方は高額療養費の記事施設選びの記事も参考にしてみてください。

心豊かな老後を過ごすためにも、体の資本づくりは大切です。私は日々のたんぱく質を、手軽なプロテインで補っています。


まとめ

  • 高齢者は突然倒れ、急に話せなくなることがある。だから「元気なうち」に備える。
  • 医療は「医師が決める」時代から、関係者みんなで最善を探す「共同意思決定」の時代へ。
  • ACP(人生会議)は完璧に決めることより「話しておくこと」が目的。決めたことは変えていい。
  • 話し合っておくことは、残される家族が揉めず後悔しないための備えでもある。
  • ピンピンコロリは幻想。徐々に老いる現実を受け止め、親の側から準備しておくと家族が救われる。

※本記事は一般的な情報提供です。具体的な医療・終末期の方針については、必ず主治医やかかりつけの専門職にご相談ください。

「そのとき」に向けて話しておくことは、暗い準備ではありません。残りの時間を、その人らしく生きるための前向きな話し合いです。今日、ほんの少しだけ、大切な人と話してみませんか。あなた自身が、あなたの人生を一番素敵にできる人です。

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