すぐやる人と、取りかかれない人の差は「意志の強さ」じゃない

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やらなければいけないと分かっているのに、なかなか手がつけられない。

私は、すぐやる人ではありません。振り返ると、いつも締め切りに追われて動いてきました。締め切りが近づいて、ようやく重い腰が上がる。そんなふうに生きてきました。

一方で、世の中には、頼まれたことにすぐ取りかかり、さっと終わらせてしまう人がいます。その差は、どこにあるのでしょうか。意志の強さや、生まれつきの性格なのでしょうか。

この記事では、すぐやる人と、取りかかれない人の差を考えます。そして、締め切りに追われてきた人でも、今日から変えられることをまとめます。

取りかかれないのは、怠けているからではない

取りかかれないとき、頭の中ではこんな声がしています。

「失敗したらどうしよう」「自分には無理かもしれない」。そして、やらない理由を探し始めます。「今日は疲れている」「もう少し準備してから」「まだ時間はある」。

心理学では、失敗したときに自分が傷つかないよう、先に言い訳を用意しておく心の働きを「セルフ・ハンディキャッピング」と呼びます。「時間がなかったから」「本気を出していなかったから」と言えるように、わざと取りかかりを遅らせてしまうことさえあるのです。

先延ばしについての研究でも、先延ばしは時間の使い方が下手だから起きるというより、不安や面倒といった嫌な気分から、今だけ逃げようとする行動だと考えられています。取りかからなければ、その瞬間の不安は消えます。ですが、やるべきことは残ったままで、不安は後になるほど大きくなっていきます。

つまり、すぐやる人と取りかかれない人の差は、意志の強さではありません。すぐやる人にも、不安や面倒な気持ちはあります。違うのは、その気持ちが消えるのを待たずに、動き出せるかどうかです。差は、感情との付き合い方にあるのです。

締め切りがあると、なぜ動けるのか

締め切りに追われてきた人は、裏を返せば、締め切りがあれば動ける人です。

締め切りが迫ると、「失敗したらどうしよう」という不安よりも、「間に合わなかったらどうしよう」という不安のほうが大きくなります。だから、動き出せるのです。前回の記事「良い目標は、今日の行動を変える」で、期限は成長の速さを決めると書きました。期限には、人を動かす力があります。

それなら、締め切りを敵にせず、味方にすればいいのです。大きな締め切りを待つのではなく、自分で小さな締め切りを作ります。「来週までに資料を作る」ではなく、「今日の夜9時までに、最初の見出しだけ書く」。締め切りを近くに置けば、動き出すまでの時間が短くなります。

もう一つ、締め切りが人を動かす理由があります。締め切りの先には、待っている人がいるということです。

介護の仕事で大切なのは、相手の気持ちを慮ることだと思います。書類一枚、連絡一本でも、その先には、返事を待っている利用者さんやご家族、同僚がいます。自分のための作業は後回しにできても、待っている人の顔を思い浮かべると、不思議と手が動きます。

自分一人の目標でも、同じ力を借りられます。家族や友人に「今週中に終わらせる」と伝えておく。それだけで、締め切りの先に相手ができます。

失敗の意味を変える

取りかかりを止めている大きな理由の一つが、過去の失敗です。

失敗したときや、人前で恥をかいたときの記憶は、強く残ります。「また同じことになるかもしれない」という気持ちが、次の一歩を重くします。できなかった過去に、今の自分が縛られてしまうのです。

発明王として知られる人物には、実験が何千回もうまくいかなかったとき、「失敗したのではない。うまくいかない方法を見つけたのだ」と語ったという話が伝えられています。

失敗は、終わりではありません。次にどうすればいいかを教えてくれる材料です。うまくいかなかったときは、反省を重ねるより、「次はこうする」を一つだけ書き出してみてください。それだけで、失敗は「恥ずかしい記憶」から「次に使える情報」に変わります。

恥をかいた記憶についても、知っておきたいことがあります。心理学には「スポットライト効果」という言葉があります。人は、自分の失敗や見た目が、周りから実際よりも注目されていると思い込みやすい、というものです。自分が気にしているほど、周りの人は覚えていません。

行動の後に、良い記憶を積む

人は、ある行動の後に良いことがあると、その行動を繰り返しやすくなります。心理学の基本的な考え方の一つです。

すぐやる人は、「やってみたら意外とすぐ終わった」「早めに済ませたから、後が楽だった」という記憶をたくさん持っています。だから、次も早く取りかかれるのです。

振り返ると、私にはこの考え方がありませんでした。締め切りに追われて終わらせても、残るのは「なんとか間に合った」という記憶です。「早くやってよかった」という記憶には、なかなかなりません。これでは、次も締め切りまで動けないままです。

良い記憶は、意識すれば積めます。

  • 最初の一歩を小さくする:「5分だけやる」と決めて始める。やり始めると、そのまま続けられることも多い
  • 終わったら、良かったことを一言残す:「早く終わって、夜がゆっくりできた」など、手帳やスマホのメモに書く
  • 小さなことほど、記録する:洗い物をすぐ済ませた、返信をすぐ送った。小さな「すぐやってよかった」が、次の一歩を軽くする

時間を生み出す:余計な仕事を自分で増やさない

「すぐやる」には、もう一つの面があります。自分で余計な仕事を生み出さないことです。

たとえば、ごみを床や机に置いておくと、あとでそれを拾うという仕事が増えます。結局、ごみを捨てるという作業はなくなりません。それなら、その場でごみ箱に入れたほうが早いのです。使った物を元の場所に戻すのも同じです。一つひとつは数秒でも、後回しにすると「片付け」というまとまった仕事になって、また先延ばしの種になります。

人は、目に入るものに気持ちを引っ張られます。部屋の状態と心の関係については、こんな研究があります。

  • 先延ばしをしやすい人ほど、家や職場に物があふれやすい(どちらが原因かは、まだ分かっていない)
  • 目に入るものが多いと、脳の中で注意の取り合いが起き、一つのことに集中しにくくなる
  • 自宅を「散らかっている」と話す人ほど、1日を通してストレスがたまりやすい傾向があった

ただし、散らかった部屋のほうが独創的なアイデアが出た、という実験もあります。同じ研究では、整った部屋にいた人のほうが、健康的な食べ物を選び、寄付も多くしていました。整った環境は、やるべきことを、きちんとやるのに向いているといえそうです。

家じゅうを完璧に片付ける必要はありません。まずは、取りかかる場所だけをすっきりさせます。机の上に、今からやることだけが置いてある。それだけで、取りかかるまでの距離が短くなります。

今日からできる、小さな工夫

  • 取りかかる時間を、自分で締め切りとして決める(「今日の夜9時から5分」)
  • 家族や友人に「〇日までに終わらせる」と伝えておく
  • 最初の一歩を、5分でできる大きさにする
  • 終わったら、良かったことを一言メモする
  • うまくいかなかったら、「次はこうする」を一つだけ書く
  • ごみはその場でごみ箱へ。取りかかる机の上だけは片付けておく

まとめ

すぐやる人と、取りかかれない人の差は、意志の強さではありません。不安や面倒という気持ちとどう付き合うか、行動の後にどんな記憶を残すか、そして余計な仕事を自分で増やしていないか。どれも、今日から変えられることです。

締め切りに追われてきた人も、締め切りを自分で近くに置けば、動き出せます。一度すぐやれたら、その良い記憶が、次の一歩を軽くします。

そして、その一歩を毎日続けると、何が起きるのか。次の記事では、「継続するだけで、人より優れている」というテーマで、小さな積み重ねが大きな差になる理由を考えます。

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