「認知症ケアの研修をやることになったけれど、何を話せばいいのか分からない」。
研修担当になると、まずここでつまずきます。認知症の資料は世の中にたくさんありますが、そのまま読み上げて研修になるものは意外と少ないんですよね。
そこで、そのまま使える研修テキストを作りました。厚生労働省の資料をもとにした全7ページで、Word版は事業所名を入れて自由に書き換えられます。記事内に全文を掲載しているので、中身を確認してからダウンロードしてください。
この資料について
- 対象:全職員(常勤・非常勤を含む)
- 位置づけ:資質向上のための研修(全サービスで実施可)
- 構成:本編3章+まとめ+受講報告シート(全7ページ)
- 根拠:厚生労働省「意思決定支援ガイドライン」「身体拘束廃止・防止の手引き」
最後の1枚は切り離して提出できる受講報告シートです。研修の実施記録として保管できます。
研修テキストの全文
以下が実際の中身です。読み上げるだけで研修が進む構成にしています。
はじめに
「何度も同じことを聞かれる」「帰りたいと言って落ち着かない」「お風呂を嫌がる」。
こうした行動は「認知症だから仕方がない」と片づけられがちです。
でも、その行動には必ず本人なりの理由があります。理由が分かれば、対応の糸口が見えてきます。
この研修では、認知症を症状としてだけでなく、「本人がどう感じているか」の側から考えていきます。
第1章 認知症の基礎知識
1-1 もの忘れとの違い
年齢によるもの忘れと、認知症によるもの忘れは違います。
- 加齢によるもの忘れ:体験の一部を忘れる。忘れた自覚がある。生活に大きな支障はない
- 認知症によるもの忘れ:体験そのものを忘れる。自覚が乏しい。生活に支障が出る
「朝食のメニューを忘れる」のが前者、「朝食を食べたこと自体を忘れる」のが後者です。
なお令和6年1月に「認知症基本法」が施行され、認知症のある人が尊厳を保ち、希望をもって暮らせる社会を目指すことが法律の目的とされました。
1-2 中核症状とBPSD
認知症の症状は、大きく2つに分けて考えます。ここが対応を考える出発点です。
- 中核症状:記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下など。脳の障害そのものによる症状で、ほとんどの人に現れます
- BPSD(行動・心理症状):不安、興奮、一人歩き、帰宅願望、介護拒否など。人によって現れ方が大きく違い、現れない人もいます
ここが一番大事です
いわゆる「困った行動」の多くはBPSDで、体調・環境・職員の関わり方に左右されます。
つまり私たちの関わり方が変われば、BPSDは和らぐ可能性があります。
1-3 主な原因疾患
原因の病気によって、現れやすい症状に違いがあります。特徴を知っておくと見通しが立てやすくなります。
- アルツハイマー型:記憶障害から始まることが多い。ゆるやかに進行する
- 血管性:脳梗塞・脳出血が原因。部位により症状が異なり、日によってむらがある
- レビー小体型:実際にはないものが見える(幻視)。日により変動が大きい
- 前頭側頭型:同じ行動を繰り返す。ふるまいの変化が現れやすい
第2章 「困った行動」の背景を読む
2-1 行動には必ず理由があります
厚生労働省の手引きでは、認知症の行動・心理症状には何らかの原因があり、それを探って取り除くことが大切だとされています。想定される要因は次の6つです。
- 職員の関わり方や言葉かけが分かりにくい
- 自分の意志にそぐわないと感じている
- 不安や孤独を感じている
- 身体的な不快や苦痛がある
- 身の危険を感じている
- 何かを伝えようとしている
この6つを頭に置いて場面を見直すと、行動の見え方が変わります。
2-2 場面別に考える
◆ 「家に帰る」と訴える
考えられる背景
- ここがどこか分からない不安
- することがなく手持ちぶさた
- 昔の暮らしや役割を思い出している
対応の工夫
- 否定せず、まず気持ちを受けとめる
- 「お茶を一杯どうぞ」と場面を切り替える
- 役割のある活動に誘う
◆ 入浴を嫌がる
考えられる背景
- 服を脱ぐことへの恥ずかしさ
- 寒い、怖いなどの身体的な不快
- これから何をされるのか分からない
対応の工夫
- 目的を短く具体的に伝える
- 脱衣所と浴室を暖めておく
- 同性介助や時間帯の変更を試す
◆ 同じことを繰り返し聞く
考えられる背景
- 聞いたこと自体を忘れている
- 不安で何度も確認したい
対応の工夫
- その都度、初めてのように答える
- カレンダーやメモで目に見える形にする
- 不安の中身に目を向ける
◆ 他の利用者とぶつかる
考えられる背景
- 相手の言動を誤解した
- 自分の居場所がないと感じている
- 体調が悪くていらだっている
対応の工夫
- まず距離をとり、双方を落ち着かせる
- 席の配置を見直す
- 体調の変化を確認する
やってはいけない対応
× 否定する・訂正する 「さっきも言いましたよ」「違いますよ」
× 子ども扱いする 呼び捨て、ため口、なだめすかす言い方
× 力で行動を止める 手を引っぱる、部屋から出られなくする
これらは不安や怒りを強め、BPSDをかえって悪化させます。また行動を制限する行為は、身体拘束に該当する可能性があります。
2-3 まず生活の土台を整える
特別な対応を考える前に、次の5つが満たされているかを確認してください。
- 起きる:座ることで目が覚め、周りの状況が分かるようになる
- 食べる:楽しみであり、脱水の予防や体力の維持につながる
- 排せつする:なるべくトイレで。不快感はBPSDの引き金になりやすい
- 清潔にする:皮膚の不快やかゆみを防ぐ
- 活動する:役割や楽しみがあると、生活にリズムが生まれる
「落ち着かない」と感じたときは、空腹・便秘・痛み・眠気といった身体の不快が原因であることが少なくありません。
第3章 本人の意思を尊重するケア
厚生労働省の「意思決定支援ガイドライン」から要点を確認します。
3-1 3つの基本原則
- 本人の意思を尊重する:一見むずかしそうでも、まず本人の意思を確認することから始めます。言葉にできないことも多いので、身振りや表情の変化も読み取ります
- 意思決定能力に配慮する:症状にかかわらず、本人には意思があり決める力があることを前提にします。その力は二択ではなく、その時々で変わります
- チームで早期から支える:自分で決められる早い段階から本人・家族・関係者で話し合い、迷ったらチームで共有して記録を残します
覚えておきたい一文
「認知症の症状にかかわらず、本人には意思があり、意思決定能力を有するということを前提にして、意思決定支援をする」
(厚生労働省 意思決定支援ガイドライン)
3-2 意思決定を支える3つの段階
- 意思形成支援:決めるための材料をそろえます。
例:「お風呂ですよ」→「今から湯船であたたまりましょう。5分ほどです」 - 意思表明支援:言葉にしてもらう段階です。決断を迫って焦らせません。
例:「外出しますか」→「今どんなことをしたいですか」 - 意思実現支援:実際に叶える段階です。
例:「庭いじりがしたい」→ プランターでの作業を日課に組み込む
本人が示した意思は、他の人を害する場合などでない限り尊重されます。
3-3 家族も支援の対象です
本人をよく知る家族は支援チームの一員です。同時に家族自身が悩みを抱えていることも多くあります。
家族を「説得する相手」ではなく「一緒に考える人」と捉えることが、結果的に本人の生活を安定させます。
まとめ
- 認知症の症状は中核症状とBPSDに分けて考える。BPSDは関わり方や環境で和らげられる
- 「困った行動」には必ず理由がある。6つの要因を手がかりに探る
- 特別な対応の前に、5つの基本的ケアが満たされているかを確認する
- 否定・訂正・子ども扱い・力での制止はBPSDを悪化させる
- 症状にかかわらず、本人には意思があり、決める力があることを前提にする
- 迷ったら一人で決めず、チームで共有して記録を残す
使うときの注意
- 事業所の実態に合わせて書き換える:場面別の例は一般的なものです。実際に困っている場面に差し替えたほうが、研修の効果は上がります
- 実施記録まで残す:実施日・参加者名・内容を記録します。対象はパート・非常勤を含む全職員です
- 認知症介護基礎研修とは別のものです:あちらは都道府県等が実施するeラーニングで、無資格の職員に受講させる措置。この研修テキストは事業所内で行う資質向上研修用です
参考資料
- 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(平成30年6月・厚生労働省)
- 介護施設・事業所等で働く方々への 身体拘束廃止・防止の手引き(令和6年3月・厚生労働省)
- 介護事業所の法定研修 資料まとめ(サービス別に必要な研修が分かる一覧)
認知症ケアは、正解がひとつに決まる分野ではありません。だからこそ「なぜこの人はこうしているんだろう」と考え続けられるかどうかが、ケアの質を分けていくのだと思います。この資料が、その話し合いのきっかけになればうれしいです。
あなた自身が、あなたの人生を一番素敵にできる人です。


コメント