医療費が高くなったとき、使える制度は複数あります。ただしそれぞれ窓口も申請方法も違い、全体像が見えにくいのが実情です。
しかも、2026年8月から高額療養費の自己負担限度額が引き上げられました。2025年にいったん見送られた話でしたが、実際に始まっています。
今回は、医療費が高いときに使える制度を一度に整理します。★の数はお金への効き目です。
高額療養費——月の上限を決める制度 ★★★
まず土台になるのがこれです。1か月に支払う医療費に上限があり、超えた分は戻ってきます。
上限額は所得で決まります。もっとも人数の多い年収およそ370万〜770万円の区分で見てみます。
これまでの80,100円+(医療費-267,000円)×1% から、2026年8月の診療分より85,800円+(医療費-267,000円)×1% に引き上げられました。
引き上げ幅は所得区分によって異なり、おおむね4%から38%。高所得の区分ほど上げ幅が大きい設計です。金額でいえば、住民税非課税の区分で+1,500円、年収約1,160万円以上の区分では+17,700円になります。
そのかわり、負担を抑える仕組みも入りました。
- 年間の上限額が新設されました——所得区分に応じて設定され、長期の治療が続く方の負担に歯止めがかかります
- 多数回該当は据え置きです——直近12か月に3回以上上限に達した場合、4回目からは上限額が下がる仕組み。ここは引き上げられていません
- 世帯合算ができます——同じ健康保険に加入している家族の医療費を合算できます
なお2027年8月には、所得区分が現在の5区分から13区分に細分化され、さらに引き上げが予定されています。今後も変わっていく制度だと考えておいてください。
実際に入院したときいくら払うことになるのかは、医療費350万円の入院、実際に払う額は?にまとめています。
マイナ保険証があれば、認定証は要りません ★★★
ここは、知らないと損をする部分です。
高額療養費は本来、いったん窓口で全額(3割)を払い、あとから払い戻される制度です。数十万円をいったん立て替えることになります。
それを避けるのが「限度額適用認定証」でした。事前に取得して窓口に出せば、最初から上限額までの支払いで済みます。
そして現在は、マイナ保険証を使えば、この認定証がなくても自動的に上限額までの窓口負担になります。オンラインで資格情報が確認できるためです。急な入院で認定証を取りに行く余裕がないときほど、この差は大きくなります。
マイナ保険証を使っていない場合は、入院が決まった時点で認定証の手続きをしてください。加入している健康保険(協会けんぽ・健保組合・市区町村)が窓口です。
医療と介護の両方があるなら、合算できます ★★★
意外と知られていないのが「高額医療・高額介護合算療養費」です。
高額療養費は「1か月の医療費」、高額介護サービス費は「1か月の介護費」に上限を設ける制度です。ですがこの2つを別々に払い続けると、年間ではかなりの金額になります。
そこで1年間(8月から翌年7月まで)の医療費と介護費を合算し、所得に応じた上限を超えた分が戻ってくるのがこの制度です。
通院しながら介護サービスも使っている高齢のご家庭には、まさに効く制度です。それなのに、知らないまま過ごしている方が少なくありません。市区町村から案内が届く場合もありますが、自分から確認しておくほうが確実です。
通院が続くなら、自立支援医療 ★★
特定の治療で通院が長く続く場合に使える制度です。自己負担が原則1割になり、さらに所得に応じた月額の上限が設けられます。
- 精神通院医療——うつ病、統合失調症、認知症などで通院を続ける場合
- 更生医療——身体障害者手帳をお持ちの方が、障害を軽くする治療を受ける場合(人工透析、人工関節など)
- 育成医療——18歳未満のお子さんの場合
特に精神通院医療は対象が広く、それでいて使われていない印象があります。通院が年単位で続くなら、3割が1割になる差は大きいはずです。市区町村の窓口で申請します。
指定難病なら、医療費助成 ★★
国が定めた指定難病と診断された場合、医療費の助成を受けられます。認定されると受給者証が交付され、自己負担割合が下がり、所得に応じた月額上限も設けられます。
パーキンソン病や潰瘍性大腸炎など、介護の場面でよく出会う病気も対象に含まれています。診断を受けたら、主治医に「指定難病の申請はできますか」と聞いてみてください。
1年が終わったら、医療費控除 ★★
ここまでが「払う額を下げる」制度だとすれば、医療費控除は「払った後に税金を減らす」制度です。
- 1年間の医療費が10万円(所得200万円未満の方は所得の5%)を超えた分が対象
- 生計を一にする家族の分を合算できます。離れて暮らす親の医療費でも、生活費を送っているなどの実態があれば対象になります
- 通院の交通費(公共交通機関)も含められます
- 介護サービスの一部も対象になります
そして、介護を受けている方にはもうひとつ大きなポイントがあります。
介護サービスの利用料も、医療費控除の対象になります。
まず対象になるのが、医療系のサービスです。
- 訪問看護
- 訪問リハビリテーション
- 居宅療養管理指導(医師や薬剤師などによる訪問指導)
- 通所リハビリテーション(デイケア)
- 短期入所療養介護(医療系のショートステイ)
ここからが大事なところです。これらの医療系サービスとあわせて使っている場合に限り、福祉系のサービスも対象になります。訪問介護(生活援助中心型を除く)、通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護などです。
つまり、訪問看護を週1回でも使っていれば、デイサービスやヘルパーの利用料まで控除の対象に入ってきます。介護の費用は毎月続くものですから、年間10万円という基準は、思っているよりずっと簡単に超えます。医療費控除のハードルは、介護が始まった時点で一気に下がると考えてください。
金額を自分で計算する必要はありません。事業所が発行する領収書に「医療費控除対象額」が記載されています。1年分をとっておくだけで足ります。
そしてもうひとつ。確定申告そのものも、マイナンバーカードがあれば思っているより簡単です。スマートフォンとカードがあれば、税務署に行かずに申告できます。マイナポータルと連携すれば、1年分の医療費通知のデータを取り込むこともできます。
「申告が面倒だから」という理由だけで控除をあきらめているなら、一度試してみる価値があります。
ひとつ注意があります。高額療養費で戻ってきた分は、医療費から差し引いて計算します。払った総額をそのまま申告するわけではありません。
申告するのは税金を払っている方です。家族の中でいちばん所得が高い方がまとめて申告すると、戻る額が大きくなることが多くなります。
現場で感じること
これらの制度に共通しているのは、どれも自分から動かないと始まらないということです。
高額療養費は健康保険、自立支援医療と難病助成は市区町村、医療費控除は税務署。窓口がすべて違います。そして病院は、医療費を安くする制度の案内までは基本的にしてくれません。
だから、領収書は捨てないでください。これだけは今日からできます。医療費控除にも、あとから高額療養費を請求するときにも要ります。高額療養費の時効は2年あるので、過去の分をさかのぼって請求できることもあります。
そして、迷ったら病院の医療相談室(医療ソーシャルワーカー)に聞いてください。入院中なら、いちばん近くにいる専門家です。介護を受けている方なら、担当のケアマネジャーでも構いません。
まとめ
- 高額療養費——月の上限を決める制度。2026年8月から引き上げ(年収約370万〜770万円の区分で80,100円→85,800円+α)。年間上限額が新設され、多数回該当は据え置き
- マイナ保険証があれば、限度額適用認定証は不要。最初から上限額までの支払いで済みます
- 高額医療・高額介護合算療養費——1年間の医療費と介護費を合算。介護中の家庭にこそ効く
- 自立支援医療——通院が長く続くなら自己負担1割。精神通院医療は対象が広い
- 指定難病の医療費助成——パーキンソン病なども対象。主治医に確認を
- 医療費控除——10万円超が対象。交通費も家族分も合算可。高額療養費で戻った分は差し引く
- 介護サービスの利用料も医療費控除の対象。訪問看護などの医療系を使っていれば、デイサービスやヘルパーの分まで対象になる。領収書に対象額が記載されている
- 窓口はすべて別。領収書は捨てない。高額療養費の時効は2年
2026年8月の引き上げは、決して小さくありません。ですがそれでも、日本の医療費には上限があります。青天井ではないということを知っているかどうかで、備え方も、いざというときの落ち着き方も変わります。
制度は変わっていきます。そのつど確認する習慣だけ持っておけば、十分だと思います。
※本記事は2026年9月時点の情報に基づく個人の考えであり、制度の内容・金額は改定される場合があります。適用の可否は個別の状況によって異なります。高額療養費は加入している健康保険、自立支援医療・難病助成はお住まいの市区町村、医療費控除は税務署にご確認ください。

コメント