身寄りがないと、入院すらできない

介護の知識

2025年、自宅で亡くなった65歳以上の一人暮らし高齢者は58,919人。警察庁から発表された数字です。

亡くなってから1か月以上経って発見されている方は4,699人(8%)。13人に一人と聞くとかなり多く感じられます。

この数字の背景にあるのが、身寄りのない高齢者という問題です。ケアマネジャーとして現場にいると、この問題の厳しさを何度も突きつけられます。

身寄りがないと、まず入院で困る

身寄りがない方の支援で、いちばん困るのは入院です。

多くの病院は入院時に身元保証人を求めます。緊急連絡先、費用の支払い保証、そして万一のときの遺体・遺品の引き取り。これを誰が担うのか、という問題です。

厚生労働省は「身元保証人がいないことのみを理由に入院を拒否してはならない」と通知を出しています。それでも現実には、病院側も困ります。誰にも連絡がつかない状態で治療を進めるのは、医療機関にとっても大きな負担だからです。

そして、もっと難しいのが医療同意です。

意外に思われるかもしれませんが、成年後見人には医療行為に同意する権限がありません。手術を受けるか、延命治療をどうするか、胃ろうを造るか——後見人は「決められない」のです。

本人の判断能力が失われ、親族もいない。そのとき、誰が決めるのか。制度に、その答えは用意されていません。だからこそ、元気なうちに希望を話しておくACP(人生会議)が重要になるのですが、身寄りのない方はそれを共有する相手すらいないことがあります。

認知症が進むと、お金が動かせなくなる

もうひとつの大きな壁が金銭管理です。

認知症が進むと、判断能力が低下したとみなされ、本人でも預金を自由に引き出せなくなることがあります。施設の利用料が払えない、生活費が動かせない。

ここで必要になるのが成年後見制度です。ただ、これも簡単ではありません。

  • 家庭裁判所への申立てが必要で、手続きに数か月かかる
  • 申立てをする親族がいなければ、市町村長申立てという手続きになる
  • 後見人には報酬が発生する(本人の資産から支払われる)
  • 一度始めると、基本的にやめられない

社会福祉協議会の日常生活自立支援事業という、もう少し軽い仕組みもありますが、対応できる範囲は限られています。

結局、すべてお金がかかる

ここが、この問題の核心だと思います。

民間の身元保証サービスを使えば、入院の保証も、死後の手続きも引き受けてもらえます。ただし数十万円から百万円規模の費用がかかることも珍しくありません。

成年後見人にも報酬が要ります。資産のある方は、お金で解決できる。

では——資産がなく、身寄りもない方は、どうなるのでしょうか。

この問いに、現場は毎回ぶつかります。入院させたいが保証人がいない。施設を探したいが受け入れ先がない。亡くなった後、誰も引き取りに来ない。

困るのは本人だけではありません。病院も、施設も、大家さんも、そして関わる私たちも困る。誰も悪くないのに、全員が困る構造になっています。

後見人を誰が担うかで、性質が変わる

現場感覚として、もうひとつ思うことがあります。

成年後見人には、弁護士・司法書士・社会福祉士などが選任されます。傾向として、資産管理が複雑なケースや親族間の争いがあるケースには弁護士や司法書士が、生活や医療・介護の調整が中心のケースには社会福祉士が選ばれやすいと言われます。

つまり、資産のあるケースは「お金の管理」が課題で、資産のないケースは「生活そのものの支え」が課題になる。

後者のほうが、日々の関わりははるかに重いのです。お金で解決できないぶん、人が動くしかない。そして、その担い手が足りていません。

法律は変わった。でも、誰が担うのか

2026年6月19日、改正社会福祉法が成立しました。身寄りのない高齢者への支援を強化する内容です。

  • 入院・入所の支援、死後事務の支援などを第2種社会福祉事業として法定化
  • これまで民間任せだった領域に、初めて公的な枠組みができる
  • 施行は2027年4月から

大きな前進だと思います。ただ、「では誰が実際に担うのか」という問題は残ります。

想定されているのは自治体や社会福祉協議会です。しかし、その現場もすでに人手が足りていません。骨太の方針2026を読んでも、介護・福祉分野の人材不足への危機感は明らかです。

制度ができることと、それが回ることは、別の話です。

これから増えるのは、別のタイプの「身寄りなし」

そして、私がいちばん重く見ているのがこの点です。

これまでの「身寄りがない高齢者」は、多くが配偶者に先立たれた、離婚した、子や親族に受け入れを拒まれた——つまり関係が「失われた」方でした。

しかし、これから増えるのは違います。もともと配偶者がいない。だから子もいない。そういう層です。

社会学でいうアンダークラス——非正規雇用や低収入で、結婚や家族形成の機会そのものを持てなかった人々。この層が高齢期に入っていきます。

経済的に苦しい状況で生きてきた方に、兄弟やおじ・おばが積極的に関わろうとするでしょうか。関係が失われたのではなく、最初から存在しない。これは、これまでとまったく違う種類の問題です。

そして彼らには、身元保証サービスを買うお金も、後見人に払う報酬も、多くの場合ありません。

民間は、この分野に入ってこない

率直に言えば、この領域は儲かりません。

資産のある方向けの身元保証・終活サービスには、すでに民間企業が参入しています。それは払える人がいるからです。

資産のない方への支援は、手間がかかり、報酬が見込めず、責任だけが重い。ビジネスとして成立しません。

だからこそ公的な枠組みが必要で、今回の法改正はその第一歩なのだと思います。ただ、財源と担い手が伴わなければ、絵に描いた餅で終わります。

では、私たちにできることは

暗い話が続きましたが、個人としてできることもあります。

まず、自分自身の備えです。

  • エンディングノートを書いておく——医療の希望、預金の場所、連絡してほしい人
  • 元気なうちに希望を伝えておく——ACP(人生会議)の考え方。相手は家族でなくてもいい
  • お金の備えをしておく——身寄りがない場合、お金が最後の頼りになります積立の始め方はこちら
  • 地域とのつながりを持っておく——民生委員、地域包括支援センターを知っておくだけでも違います

そして身近にいる一人暮らしの高齢者を、少し気にかけること

毎日新聞受けが溜まっていないか。夏なのに窓が閉まりきっていないか。姿を見かけない日が続いていないか。1か月以上発見されなかった4,538人——この数字を減らせるのは、制度より先に、近所の目かもしれません。

まとめ

  • 2025年、自宅で亡くなった65歳以上の一人暮らし高齢者は58,919
  • 身寄りがないと入院で困る。成年後見人にも医療同意の権限はない
  • 認知症が進むと金銭管理ができなくなる。後見制度は時間も費用もかかる。
  • 身元保証も後見も、結局はお金。資産のない人が最も行き場を失う。
  • 2026年6月に改正社会福祉法が成立(施行は2027年4月)。ただし担い手の確保は これから。
  • 今後増えるのは「関係を失った人」ではなく、もともと家族を持たなかった層
  • 民間は参入しない。儲からないから。だからこそ公的支援と、地域の目が要る。

※本記事は2026年8月時点の情報にもとづく個人の考えです。制度の詳細や利用条件はお住まいの市区町村、地域包括支援センター、社会福祉協議会にご確認ください。

身寄りがないことは、本人の責任ではありません。それでも、備えられることはある。そしてその備えの多くは、元気なうちにしかできません。

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