「2026年1-9月『デイサービス』倒産47件 同期間で過去最多、介護業界の苦境鮮明」。2026年10月、東京商工リサーチがこんな調査結果を発表しました。
高齢者は増え続けているのに、なぜデイサービスが潰れていくのでしょうか。利用したい人は増えているはずです。
私は、ケアマネジャーとして利用者さんにデイサービスを紹介する立場と、デイサービスの管理者として事業所を運営する立場の、両方で働いています。この記事では、その両方の目線から、デイサービスが潰れていく理由と、反対に伸びている事業所の共通点を考えます。最後に、介護の事業所で働く人が、自分の職場を見るときの視点もまとめます。
数字で見る、デイサービスの今
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| デイサービスの倒産(1〜9月) | 47件(前年同期35件、34.2%増)。同じ期間で過去最多 |
| 倒産の主な原因 | 売上不振が37件(78.7%) |
| 人手不足が関係した倒産 | 11件(前年同期3件)。うち人件費の高騰が7件 |
| 訪問介護の倒産 | 64件(11.1%減)。減ったものの、過去2番目の多さ |
| 介護業界全体の倒産 | 136件。過去最多に並ぶ |
年間の最多は、フランチャイズのデイサービスが連鎖倒産した2022年の69件です。今年はそれに次ぐ60件台に届く勢いだとされています。
一方で、厚生労働省の経営調査(令和7年度介護事業経営概況調査)を見ると、少し違う景色が見えてきます。
| 利益率(令和5年度→6年度) | 赤字の事業所の割合 | |
|---|---|---|
| 通所介護 | 6.5% → 6.2% | 37.4% |
| 地域密着型通所介護(小規模) | 5.8% → 6.3% | 37.2% |
平均すると、デイサービスは黒字です。ですが、4割近くの事業所が赤字です。もうかっている事業所と、苦しい事業所に、はっきり分かれているのです。しかも、規模の小さい事業所の利益率は、大きい事業所と変わりません。小さいから潰れる、大きいから残る、という単純な話ではないのです。
なぜ潰れるのか:介護事業ならではの収益の仕組み
値段を自分で決められない
デイサービスの売上は、ほぼ「利用者の数×介護報酬」で決まります。そしてこの介護報酬は、国が決める価格です。原則3年に1度しか見直されず、事業所が自由に値上げすることはできません。
一方で、費用は上がり続けています。最低賃金は、全国平均で2025年度に1,121円、2026年度に1,177円と、2年続けて大きく上がりました。ガソリン代や食材費、光熱費も上がっています。普通のお店なら値上げで対応できますが、介護事業ではそれができません。
利用者が埋まらなければ赤字になる
さらに、デイサービスの費用の多くは、職員の人件費、送迎の車、建物の家賃など、利用者が少なくてもかかるものです。だから、定員に対してどれだけ利用者が埋まっているかで、黒字か赤字かが決まります。
人手不足が生む、悪い流れ
倒産の原因の8割が「売上不振」だったのは、利用者が集まらなかったということです。そしてもう一つ、見落とせないのが人手不足です。利用したい人がいても、職員が足りなければ受け入れられません。人がいないから利用者を受けられず、売上が落ち、給料を上げられず、さらに人が辞めていく。この悪い流れに入った事業所から、潰れていっているのだと思います。
介護職員の給料は、ボーナスを含めた月あたりで30.3万円と、全産業の平均(38.6万円)より8万円以上低いのが現状です(厚生労働省、令和6年賃金構造基本統計調査)。介護の仕事は、どうしてもほかの仕事と比べて選ばれにくい。だからこそ、人が集まる事業所と、集まらない事業所の差が、そのまま経営の差になっています。
伸びている事業所は、SNSを使っている
では、伸びている事業所は何が違うのでしょうか。私が見ていて感じるのは、伸びている事業所は、SNSをうまく使っているということです。日々の活動の様子や、事業所の考え方を、写真や動画で発信しています。
ただし、ここで間違えてはいけないのは、SNSを始めれば伸びるわけではないということです。SNSは原因ではなく、結果です。
SNSで発信できるのは、自分たちがしたいことが、はっきりしているからです。「うちは、体を動かすことに力を入れている」「うちは、一人ひとりの趣味を大事にしている」。伝えたいことがあるから、発信できる。発信することがない事業所は、SNSを始めても続きません。介護の現場でSNSをどう生かせるかは、「介護職員こそInstagramを見てほしい」にも書きました。
伸びる事業所に起きている、良い流れ
目的がはっきりしている事業所には、次のような良い流れが生まれていると考えています。
1.目的がはっきりしているから、合う職員が集まる
求人票に並ぶのは、たいてい給料や休日、勤務時間です。ですが、SNSで「何をしたい事業所か」が見えていると、その考え方に共感した人が集まります。体を動かすのが好きな人、レクを工夫するのが好きな人。事業所のしたいことと、職員のしたいことが合っていれば、入ってからの「思っていたのと違う」が減り、辞めにくくなります。
2.フットワークが軽いから、新しいものを取り入れる
SNSのような新しい道具を使いこなせる事業所は、ほかのことにもフットワークが軽い傾向があります。記録のICT化、AIの活用、送迎ルートの効率化。新しいものを試すことに抵抗が少ないのです。
国もこの方向を後押ししています。2026年10月の所信表明演説で、首相は、医療・介護などで「AX(AIによる業務の作り変え)」を大胆に進めると述べました。2027年度の介護報酬改定に向けた議論でも、他の事業所との共同送迎を進める案などが出ています。
3.生産性が上がるから、給料を出せる
新しいものを取り入れると、記録や連絡、送迎の段取りといった間接的な仕事が減ります。同じ人数で、より多くの利用者を受け入れられるようになり、職員は利用者と向き合う時間を増やせます。
そして、生産性に取り組む事業所は、報酬の面でも有利になり始めています。2026年6月の介護報酬の臨時改定(改定率+2.03%、うち処遇改善分+1.95%)では、処遇改善加算に、生産性向上や他の事業所との協働に取り組む事業所向けの上乗せ区分が新しく作られました。取り組む事業所ほど、職員にしっかりとした給料を出せる仕組みです。
4.給料を出せるから、さらに人が集まる
給料を出せれば、人が集まり、辞めにくくなります。人がいれば、利用者を断らずに受け入れられ、売上が増えます。売上が増えれば、さらに新しいことに挑戦でき、給料にも回せます。
伸びる事業所の良い流れ
目的がはっきりしている → 合う職員が集まる → 新しいものを取り入れる → 生産性が上がる → 給料を出せる → さらに人が集まる
良い流れが、次の良い流れを生む。これは、お金や成長と同じ「複利」の形です。反対に、悪い流れに入った事業所は、どんどん苦しくなります。4割の赤字と、平均の黒字に分かれているのは、この差だと思います。
介護の事業所で働く人へ:自分の職場を見る3つの視点
自分の職場は大丈夫だろうか。このニュースを見て、そう思った人もいるかもしれません。職場を見るときの視点を3つ挙げます。
1.何をしたい事業所か、言えるか
自分の事業所が「何を大事にしているか」を、職員が一言で言えるでしょうか。目的がはっきりしない事業所は、利用者からも、働く人からも選ばれにくくなります。
2.新しいことを、取り入れているか
記録は手書きのまま、連絡は電話とFAXだけ、新しい提案はいつも「前例がない」で終わる。そうした職場は、生産性が上がらず、給料も上がりにくくなります。
3.数字で確かめる
厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」では、全国の介護事業所の情報を誰でも見ることができます。従業者の数や、前年度に辞めた職員の数、職種ごとの経験年数なども公表されています。自分の職場や、転職先の候補を、数字で確かめることができます。
また、もし管理者や上司と話せる関係なら、利用者が定員のどれくらい埋まっているかを知っておくのも大切です。利用者が減り続けているなら、それは経営が苦しくなっているサインです。
職場が危ないと感じたとき、早めに転職を考えるのも、立て直す側に回るのも、どちらも正しい選択です。大事なのは、なんとなく不安を抱えたまま働き続けるのではなく、自分で状況を知って、自分で選ぶことです。
管理者として、思うこと
デイサービスの倒産が過去最多というニュースは、同じ業界で働く者として、重く受け止めています。ですが、すべての事業所が苦しいわけではありません。伸びている事業所は、確かにあります。
その違いは、才能や規模ではなく、自分たちが何をしたいのかをはっきりさせ、それを発信し、新しいものを取り入れて、職員にしっかりとした給料を出すことだと思います。どれも、今日から取り組めることです。
※本記事は2026年10月時点の情報をもとにしています。倒産件数は東京商工リサーチ、利益率と赤字の事業所の割合は厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査」、賃金は厚生労働省の公表資料によります。2027年度の介護報酬改定の内容は、議論の途中の案です。

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