担当している利用者さんのお薬手帳を開いて、ずらりと並んだ薬の種類に驚いたことが何度もあります。ご本人も家族も「先生が出してくれた薬だから」と、すべて飲み続けている——高齢者医療の現場でとてもよくある光景です。
今回は、ケアマネとして日々向き合っている多剤処方(ポリファーマシー)の問題について、何が起こるのか、家族に何ができるのかを整理します。
多剤処方(ポリファーマシー)とは
多くの薬を服用していることで、副作用が生じたり、正しく服薬できなくなったりと、不利益が生じている状態を指します。単に「薬の数が多い」こと自体を指す言葉ではありません。
『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』(日本老年医学会)では、6種類以上の薬の服用で、薬物有害事象や転倒の発生が増加することが示されています。厚生労働省も「高齢者の医薬品適正使用の指針」を出して注意を呼びかけています。
薬が増えると何が起きるのか
高齢になると、体内で薬を分解・排泄する力が落ち、薬が「効きすぎる」ことがあります。その結果——
- ふらつき
- 転倒
- 物忘れ
- 食欲低下
といった症状が出やすくなります。怖いのは、これらが薬のせいだと気づかれにくいこと。「歳のせいかね」で片付けられ、症状を抑えるためにさらに薬が追加される——本末転倒なことが実際に起こります。
「転倒→入院」が人生を変えてしまう
高齢者にとって転倒は、骨折に直結する重大事です。そして入院すると、10日間の安静で約7年分の老化に相当する骨格筋を失うとも言われます。ベッド上の生活・活動量の低下・食事量の低下が重なり、「退院したのに、入院前の生活に戻れない」ケースを現場で何度も見てきました。
薬が増える → ふらつく → 転倒・入院 → 筋力が落ちる → さらに転倒しやすくなる。この負の連鎖に一度入ると、抜け出すのは本当に困難です。
家族にできる3つのこと
- お薬手帳を1冊にまとめる:複数の病院・薬局にかかっていると、同じような薬が重複しがちです。手帳を1冊にすれば、医師も薬剤師も全体を把握できます。
- 「この薬は今も必要ですか?」と聞いてみる:受診時にこの一言を添えるだけで、処方が見直されることがあります。かかりつけ薬剤師に相談するのも有効です。
- 症状の変化をメモして伝える:「新しい薬が始まってからふらつく」といった情報は、医師にとって貴重な判断材料です。
絶対にしてはいけないのは、自己判断で薬をやめることです。急にやめると危険な薬もあります。必ず医師・薬剤師に相談してください。
薬を見直すのと同時に、転ばない体をつくることも大切です。たんぱく質をしっかり摂って筋肉を守ることは、転倒予防のいちばんの土台になります。
まとめ
- 多剤処方は「薬が多くて不利益が出ている状態」。6種類以上で入院・転倒リスクが上がる。
- ふらつき・物忘れ・食欲低下が「薬のせい」だと気づかれないことが多い。
- 転倒→入院→筋力低下の負の連鎖は、人生を変えてしまう。
- 家族はお薬手帳の一本化・「今も必要?」の一言・症状メモで力になれる。
- 自己判断での中止は厳禁。必ず医師・薬剤師に相談を。
※本記事は一般的な情報提供です。薬の変更・中止は必ず医師・薬剤師にご相談ください。
大切な人の「なんだか最近ふらつくね」に、薬という視点を持ってあげてください。あなた自身が、あなたの人生を一番素敵にできる人です。


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