介護事業所の防災で求められていることは、大きく2つあります。ひとつは「避難訓練」(非常災害対策)。もうひとつは、2024年度から全サービスで義務になった「業務継続計画(BCP)」です。
BCPには研修と訓練も必要です。「避難訓練もやって、BCPの訓練もやって」と考えると、負担が大きく感じられます。
ですが、自然災害のBCPの訓練は、避難訓練と一緒に行ってかまいません。運営基準の解釈通知に、そう書かれています。
この記事では、避難訓練とBCPの関係を整理し、1回でまとめて行う方法、そして災害時に本当に困ることを先に見つけておく訓練のポイントをまとめます。記事の最後で、自然災害のBCPと訓練シナリオを、通所・入所・訪問のサービス別に無料で配布しています。
避難訓練とBCPは、何が違うのか
| 避難訓練(非常災害対策) | 業務継続計画(BCP) | |
|---|---|---|
| 対象 | 22サービス(施設・通所・居住系など) | 37サービス(居宅療養管理指導などを除く) |
| 計画 | 「非常災害に関する具体的計画」=消防計画と、風水害・地震などへの計画 | 感染症編と自然災害編の2つ |
| 求められること | 避難・救出などの訓練を定期的に行う。地域住民の参加が得られるよう努める | 計画を作り、研修・訓練(年1回以上、施設系は年2回以上)と見直しを行う |
| 主な目的 | 命を守る(その場から安全に逃げる) | 命を守ったあと、サービスを続ける・早く再開する |
ざっくり言えば、避難訓練は「逃げるための備え」、BCPは「逃げたあとも支え続けるための備え」です。目的は違いますが、訓練の中身は大きく重なります。
自然災害のBCPの訓練は、避難訓練と1回にまとめていい
解釈通知では、BCPの訓練について「災害の業務継続計画に係る訓練については、非常災害対策に係る訓練と一体的に実施することも差し支えない」とされています。
つまり、避難訓練の日に、避難だけでなく「そのあとサービスをどうするか」まで話し合えば、避難訓練とBCPの訓練を1回で満たせます。訓練の記録には、両方を兼ねたことを残しておきましょう。
なお、訪問系サービスには避難訓練の義務はありませんが、自然災害のBCPと、その研修・訓練は必要です。
BCPがないと、基本報酬が減算されます
感染症か自然災害のどちらか、または両方のBCPを作っていない場合、「業務継続計画未策定減算」として基本報酬が減算されます。施設・居住系サービスは所定単位数の3%、その他のサービスは1%です(居宅療養管理指導・特定福祉用具販売は対象外)。経過措置は2025年3月31日で終わっています。
感染症編だけ作って自然災害編がない、という状態でも減算の対象になる点に注意してください。感染症編は感染症の研修と訓練は、BCPと1回にまとめていいで配布しています。
災害時に本当に困るのは「避難したあと」
避難訓練というと、非常ベルを鳴らして外に出て、人数を数えて終わり、になりがちです。ですが、災害時に現場が本当に困るのは、その後です。たとえば、デイサービスでこんな場面を考えてみてください。
午後2時。大きな地震のあと、余震が続いています。家族に電話をかけても、ほとんどつながりません。送迎ルートの一部が通行止めになっています。一人暮らしのBさんは、自宅の様子が分かりません。
誰から、どうやって帰すのか。家に誰もいない利用者はどうするのか。事業所に泊まることになったら、食料や毛布、本人の薬は足りるのか。話し合ってみると、「緊急連絡先が1つしかない利用者がいる」「電話以外の連絡手段を決めていない」といった課題が見えてきます。
入所施設なら「夜勤3人のときに地震が起き、停電した」、訪問介護なら「ヘルパーが訪問中に被災し、事業所と連絡がとれない」。サービスによって、困ることはまったく違います。
台風・大雨は「前日」に決めておく
地震と違い、台風や大雨はある程度予測できます。だからこそ、事前に「いつ、誰が、何を決めるか」を決めておくことが大切です。
- 通所・訪問:前日の決めた時刻までに、翌日のサービスを「通常」「時間短縮」「休止」のどれにするか判断する。一斉連絡で利用者・家族とケアマネジャーに知らせる。必要なら、今日のうちに入浴や食事の準備を済ませる(前倒し)
- 入所:市町村から「高齢者等避難」(警戒レベル3)が出たら、避難を始める。入所者の避難には時間がかかるため、明るいうちに、上の階などへ移る
- 共通:判断の基準を契約時に利用者・家族へ説明し、ケアマネジャーにも伝えておく
ハザードマップで浸水想定区域や土砂災害警戒区域に入っていて、市町村の地域防災計画に要配慮者利用施設として定められている場合は、避難確保計画の作成と避難訓練も必要です。まずは事業所の所在地のハザードマップを確認してみてください。
電話はつながらない前提で準備する
大きな災害の直後は、電話がほとんどつながりません。連絡手段を複数用意しておくことは、BCPの中でも、すぐに取りかかれて効果の大きい準備です。
- 利用者の緊急連絡先を2か所以上。電話番号に加えて、メールやSMSを受け取れる番号も登録する
- 職員への連絡は、グループメッセージや一斉メールなど、一度に送れる方法を決めておく
- 災害用伝言ダイヤル(171)を、体験利用日(毎月1日・15日など)に実際に試しておく
- 参集の基準と連絡方法を、職員が持ち歩けるカードにしておく
自然災害のBCPと訓練シナリオを配布しています
ここまでの内容を、事業所でそのまま使える形にまとめました。厚生労働省の「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」とひな形(共通・サービス固有)をもとに、章立てはひな形と同じ並びにしています。Word版は事業所名や連絡先を書き換えて使えます。
業務継続計画(BCP)自然災害編
- 総論(ハザードマップを見て書き込むリスクの表、ライフラインが止まる日数の目安)、平常時の対応(電気・ガス・水道・通信が止まったとき、備蓄)、緊急時の対応(発動の基準、利用中・訪問中・夜間の地震、台風や大雨の前の判断、安否確認、参集、避難、復旧)、連携
- 様式:推進体制/連絡先/備蓄品(災害用)/業務の分類/利用者の安否確認・優先度一覧/職員の携帯カード/見直しの記録
BCP(自然災害編)をダウンロード
通所系(全11ページ)
入所系(全11ページ)
訪問系(全11ページ)
避難訓練(自然災害)の訓練シナリオ
- 机上訓練4場面(状況→話し合う問い→進行役用の確認のポイント)。通所は「利用中の地震・帰宅支援・翌日の再開・台風の前日」、入所は「夜間の地震・停電断水・大雨での上階避難」、訪問は「訪問中の地震・安否確認・台風の前日」
- 実地訓練(避難訓練、171を使った連絡訓練)のチェック表と、避難訓練・BCPの訓練を兼ねる実施記録つき
訓練シナリオ(自然災害)をダウンロード
避難訓練(自然災害)通所系(全6ページ)
避難訓練(自然災害)入所系(全5ページ)
自然災害 訓練シナリオ 訪問系(全5ページ)
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まとめ
- 避難訓練は「逃げるための備え」、BCPは「逃げたあとも支え続けるための備え」
- 自然災害のBCPの訓練は、避難訓練と1回にまとめてよい。記録に両方を兼ねたことを残す
- BCPがないと基本報酬が減算される。感染症編と自然災害編の両方が必要
- 訓練では「避難したあと」に困ることを話し合う。帰宅支援、停電・断水、職員の参集
- 台風・大雨は前日に判断する。入所は「高齢者等避難」で動き始める
- 電話はつながらない前提で、連絡手段を複数用意しておく
災害は、いつ来るか分かりません。だからこそ、訓練で「決まっていないこと」を一つずつ見つけて、計画に書き足していく。その積み重ねが、いざというときに利用者と職員を守ります。
※本記事は2026年9月時点の情報をもとにしています。研修・訓練の回数など、サービスの種類によって基準が異なる部分があります。詳しくは指定権者(都道府県・市町村)にご確認ください。

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