日本人は金融リテラシー38位。それでも豊かだった理由と、これから必要になるもの

お金・投資

S&Pの国際調査で、日本の金融リテラシーは38位でした。基本的な金融知識を持つ人の割合は43%。デンマークやノルウェーなど北欧諸国が71%、カナダが68%、イギリスが67%ですから、決して高い順位ではありません。

では、日本は遅れた国なのでしょうか。私はそうは思いません。

リテラシーが高くないのに、豊かだった

興味深いのは、日本が金融知識で劣っていながら、長く経済的な豊かさを保ってきたことです。

理由は、たぶんこういうことだと思います。

勤勉に働いてきたから。そして、お金を大事に扱ってきたから。

コツコツ働き、無駄遣いをせず、貯金する。「もったいない」という言葉が生きていて、借金を恥と考える文化があった。投資の知識はなくても、浪費しない習慣があったのです。

高齢の方と接していると、それを強く感じます。質素に暮らし、しっかり蓄えてきた方の多いこと。金融商品の知識はなくても、生活を守る力は確かにありました。

これは誇っていい国民性だと思います。

ただ、前提が変わってしまった

問題は、その方法が通用しにくくなってきたことです。

勤勉に働けば給料が上がり、貯金していれば利息がついて、年金で老後は安心——この前提が、もう成り立ちません。

  • 社会保険料が重い——額面は増えても手取りが増えない
  • 物価が上がり続けている——食料品も、光熱費も、携帯電話のような生活必需品も
  • 預金では価値が目減りする——金利より物価上昇が上回る(インフレの話はこちら
  • 制度も「自分で選ぶ」方向へ——NISA、iDeCo、そして金融所得による保険料の負担増

つまり——真面目に働いて貯金するだけでは、守れなくなったということです。

勤勉さは今も大切です。でも、それだけでは足りない。そこに知識を足す必要が出てきたのだと思います。

物欲のままに使えば、確実に困る

もうひとつ、時代の変化があります。お金を使わせる仕組みが、かつてなく巧妙になったことです。

スマホを開けば広告が流れ、ワンタップで買え、後払いもリボ払いも簡単に組める。サブスクは気づかないうちに増えていく。

手取りが減り、物価が上がっているのに、使う誘惑だけは増え続けている。この環境で物欲のままに動けば、将来お金がなくて困るのは目に見えています。

ここで効くのが知識です。「これは誰が得をする話なのか」と一度考えられるかどうか。金融リテラシーとは、儲ける技術である前に自分を守る技術なのだと思います。

お金は、安心を買うためにある

私が金融の勉強を始めたきっかけは、ケアマネとしての経験でした。

高齢の方と接していると、お金があるかないかで、選べる生活がまるで違うことを痛感します。施設を選べる人と、空いているところに入るしかない人。必要なサービスを使える人と、費用を気にして断る人(施設選びの現実はこちら)。

ただ、ここで気づいたことがあります。お金の不安は、資産の多い少ないとは別のところにあるということです。

十分な蓄えがある方でも、不安を口にされます。逆に、決して裕福ではないのに落ち着いている方もいる。金額ではなく、「自分は把握できている」という感覚があるかどうか——差はそこにあるように思います。

それを強く感じるのが、認知症のある方の訴えです。

「嫁にお金を取られた」「息子が嫁の味方をして、私をいじめる」——お金にまつわる訴えは、驚くほど多いのです。実際には盗られていないことがほとんどですが、ご本人にとっては現実です。

私はこれを、お金を「自分で管理できなくなること」への恐怖だと理解しています。通帳の残高が分からない。振り込みができない。自分のお金なのに、自分で動かせない。その心細さが、身近な人への疑いという形で出てくる。

もし元気なうちからお金の知識があり、「これだけあれば大丈夫」「こういう仕組みで管理されている」という理解を持てていたら。そして家族とその話を共有できていたら。訴えの出方は、少し違ったのではないかと思うことがあります。

もちろん、認知症の症状は知識だけで防げるものではありません。ただ——お金の不安は、額の問題ではなく「分かっているかどうか」の問題だという確信は、年々強くなっています。

「何かあっても、まあ大丈夫」——この感覚こそが、お金の知識が与えてくれるいちばんの価値だと思います。

お金は、贅沢をするためだけのものではありません。安心を買うためのものです。そして安心は、人生の質そのものを左右します。

豊かさが、社会を安定させる

ここからは、少し大きな話をします。

金融リテラシーの高い国は経済が安定している、というデータがあります。ただ正直に言えば、これは相関であって、因果関係が証明されたわけではありません。豊かだから教育に投資できた、という順番かもしれない。

それでも私は、リテラシーを上げることが社会の安定につながると考えています。理由は単純です。

  • 一人ひとりが備えれば、老後に困る人が減る
  • 困る人が減れば、生活保護や社会保障の負担も軽くなる
  • 家族が経済的に共倒れすることも減る
  • そして何より——気持ちにゆとりのある人が増える

お金の不安がない人は、他人にやさしくできます。将来に希望が持てれば、挑戦もできる。個人の安心の総和が、社会の安定になる——私はそう思っています。

国が守ってくれるのを待つのではなく、一人ひとりが自分と家族を守れる状態。それが、安心して暮らせる国の姿ではないでしょうか。

ここで思い出すのが、有名な言葉です。

魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ。

給付金を配れば、その場はしのげます。でもお金は使えばなくなり、また同じ状況が来ます。知識は違います。一度身につければ、その人の生涯にわたって効き続ける。そして次の世代にも渡せます。

もちろん、今まさに困っている人には魚が要ります。生活保護も、給付も、必要な仕組みです。ただそれと並行して、釣り方を教える仕組み——つまり金融教育がなければ、支援は永遠に終わりません。

お金に困る人が減れば、詐欺の被害も、貧困による孤立も、家族の共倒れも減ります。金融教育は、住みやすい国をつくるための、地味だけれど確実な投資だと私は思っています。

では、何から始めるか

大げさな勉強は要りません。順番はこうだと思います。

  • ① 支出を把握する——何にいくら使っているか。ここを見ないまま先には進めません
  • ② 固定費を見直す——通信費、保険、サブスク。一度やれば効果が続きます(私が月3万円を捻出した方法
  • ③ 制度を知る——高額療養費、傷病手当金、各種の助成。日本の制度は申請しないともらえません
  • ④ 少額から投資を始める——金額より、始めることに意味があります
  • ⑤ 情報の出どころを疑う癖をつける——「誰が得をする話か」を考える

特に③は見落とされがちです。高額療養費制度を知っているだけで、医療費への不安はかなり減ります。知っているかどうかだけで、手元に残るお金が変わるのです。

教育が、いちばん確実な備え

日本では2022年から高校で金融教育が始まりました。遅いという声もありますが、始まったこと自体は大きな前進だと思います。

ただ、今の大人には、その授業はありませんでした。だから自分で学ぶしかありません。

幸い、今は無料で学べる時代です。金融庁のサイト、書籍、動画。私もそうやって学んできました。始めるのに、遅すぎることはありません今日から動く技術の記事もどうぞ)。

そして——学んだことは、子どもや孫にも伝えてください。

子孫に遺すなら、お金より知識を

先ほどの「魚の釣り方」の話には、もうひとつの意味があると思っています。

子どもや孫の繁栄を願うのなら、お金を遺すより、知識を渡すべきだということです。

まとまった財産を遺しても、使い方を知らなければ、数年で消えることがあります。宝くじの高額当選者が、その後かえって生活を崩すという話は昔から言われるとおりです。入ってくる額より、扱う力のほうが大事なのです。

逆に、お金の扱い方を身につけた人は、遺産がなくても自分で築いていけます。そしてその知識は、さらに次の世代へ渡っていきます。お金は使えばなくなりますが、知識は減りません。むしろ、渡すほど増えていく。

ケアマネとして相続の場面に立ち会うこともありますが、お金の話を一度もしてこなかった家族ほど、そこで揉めます。普段からお金について話せる関係を作っておくことは、それ自体が家族への贈り物だと思います。

本音を伝えられるのは、家族だけ

そしてここに、家庭で教えることの決定的な意味があります。

公共の場で教えられる知識は、どうしても中立的にならざるを得ません。学校の授業も、行政のセミナーも、多くの関係者や業界に配慮した内容になります。

たとえば、こういうことは公の場では言いにくいはずです。

  • その保険は、あなたには必要ないかもしれない
  • 窓口ですすめられる商品は、手数料が高いことがある
  • その買い物は、見栄のためではないか
  • その借金は、しないほうがいい

どれも大切なことですが、特定の業界を否定することになるため、公的な教育では踏み込みにくい領域です。

必要と不必要をはっきり伝えられるのは、家族だけです。利害関係がなく、その人の生活を知っていて、嫌われても言える。そんな立場にいるのは家族しかいません。

だから、学校の金融教育に任せきりにしないでほしいのです。食卓で「この保険、うちには要らないと思う」「これは高い買い物だった」と話す。失敗談でも構いません。むしろ失敗談のほうが伝わります。それが、教科書には載らない本物の金融教育になります。

まとめ

  • 日本の金融リテラシーは38位。それでも豊かだったのは、勤勉さと「お金を大事にする」文化があったから。
  • しかし前提が変わった。社会保険料、物価上昇、目減りする預金、自助を求める制度。
  • 真面目に働いて貯金するだけでは守れない時代になった。
  • 金融リテラシーは、儲ける技術より先に自分を守る技術
  • 一人ひとりの備えが増えれば、社会保障の負担も減り、気持ちにゆとりのある人が増える。
  • 支出の把握 → 固定費の見直し → 制度を知る → 少額投資 → 情報を疑う。この順番で。
  • 「魚を与えるのではなく、釣り方を教えよ」。金融教育は住みやすい国をつくるための確実な投資
  • 子孫に遺すなら、お金より知識を。お金は使えば減るが、知識は渡すほど増える
  • 必要・不必要をはっきり言えるのは家族だけ。公の教育は忖度が入る。食卓での失敗談こそ本物の金融教育。

※本記事は個人の考えに基づく情報提供であり、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任のもとで行ってください。金融リテラシーと経済安定の関係については相関が報告されていますが、因果関係が確立されたものではありません。

お金の知識は、才能ではありません。知っているかどうかだけです。だからこそ、誰でも今日から始められます。

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