ケアマネの個人情報漏えいは、FAXからAIへ|起きやすい場面と、IT化から逃げられない理由

AI・テクノロジー

ケアマネジャーの仕事は、個人情報を扱う仕事でもあります。氏名や住所だけでなく、病名、飲んでいる薬、認知症の状態、家族の関係、年金や預貯金のことまで、利用者の暮らしのほとんどすべてを知ることになります。

その情報を、私たちは毎日、病院やサービス事業所、家族とやり取りしています。FAXで、電話で、紙で。そして最近は、パソコンやスマホ、生成AIも使うようになりました。

この記事では、今までの仕事の仕方で起きる漏えいと、これからAIを使うことで起きる漏えいを整理し、そのうえで、IT化から逃げずに安全に仕事をするための考え方をまとめます。

ケアマネが扱う情報は「特に慎重に扱う情報」

個人情報保護法では、病歴や障害など、知られることで本人が差別や不利益を受けるおそれのある情報を「要配慮個人情報」として、特に慎重に扱うよう定めています。ケアマネが扱う情報の多くは、これにあたります。

そして、要配慮個人情報が漏えいした場合(そのおそれがある場合を含む)は、たとえ1件でも、国の個人情報保護委員会への報告と、本人への通知が必要です。FAXを1枚、別の事業所に送ってしまっただけでも、この対象になりえます。

介護保険の運営基準でも、ケアマネは正当な理由なく、仕事で知った利用者や家族の秘密を漏らしてはならないと定められています。退職したあとも同じです。サービス担当者会議などで利用者の個人情報を使うときは、あらかじめ文書で同意を得ておく必要があります。

今までの仕事の仕方で起きる漏えい

漏えいというと、サイバー攻撃のような大きな話を想像しがちです。ですが、ケアマネの現場で起きやすいのは、もっと身近な場面です。

場面起きやすいこと
FAX番号の押し間違い、短縮ダイヤルの登録ミスで、別の事業所や個人の家に届く。送った後に気づいても取り戻せない
紙の書類訪問先や車、飲食店への置き忘れ。車上荒らし。自宅への持ち帰り中の紛失
書類の渡し間違い別の利用者の書類が混ざったまま、家族や事業所に渡す。封筒の入れ間違い
メール宛先の選び間違い。CCで他の人のアドレスが見えてしまう。添付ファイルの間違い
電話家族や関係者を名乗る相手に、本人確認をしないまま話してしまう
会話事業所の外や、待合、エレベーターでの利用者の話。窓を開けたままの電話

どれも、悪意ではなく「うっかり」から起きます。そして、忙しいときほど起きやすくなります。

これからAIを使うことで起きる漏えい

生成AIは、記録の下書きや文書の作成、調べものに役立ちます。ケアマネの仕事を楽にしてくれる道具であることは間違いありません。ただ、使い方を間違えると、新しい形の漏えいが起きます。

  • 生成AIに、利用者の情報をそのまま入力する:入力した内容が、サービスの設定によってはAIの学習に使われることがあります。氏名を消しても、年齢、地域、病名、家族構成の組み合わせで、本人が分かってしまうことがあります
  • 録音・文字起こしのアプリ:担当者会議やモニタリングを録音し、文字起こしをするアプリは便利です。ですが、録音した音声が、どこのサーバーに保存され、誰が見られるのかを確かめないまま使うと、情報が外に出ていきます
  • 私物のスマホで仕事をする:私物のスマホに入れたAIアプリやキーボードアプリ、写真のバックアップから、気づかないうちに情報が外のサービスへ送られることがあります
  • AIで作られた詐欺メール:AIで作った自然な日本語の偽メールで、介護ソフトやメールのIDとパスワードを盗まれ、事業所のパソコンに入り込まれることがあります

国の個人情報保護委員会も、生成AIを使う事業者に対して、個人情報を入力する場合は利用目的の範囲内かを確かめること、AIの学習に使われないかを確認することなどを注意喚起しています。

介護の仕事で生成AIを使うときの具体的な考え方は、生成AIに個人情報を入れていいかの記事で、事業所向けの利用ルールのひな形と一緒にまとめています。

それでも、IT化からは逃げられない

ここまで読むと、「それなら、今までどおり紙とFAXでいい」と思うかもしれません。ですが、私はそうは考えていません。介護のIT化は、国の方針だからです。

国は、ケアマネとサービス事業所の間でケアプランをデータでやり取りする「ケアプランデータ連携システム」を整備し、介護の情報をつなぐ仕組みづくりを進めています。そして、IT化に取り組む事業所が、報酬で評価される仕組みを少しずつ増やしています。

処遇改善加算は、その一例

令和8年度の介護報酬改定で、これまで対象外だった居宅介護支援にも、介護職員等処遇改善加算が新しく設けられました(加算率2.1%)。

この加算を取る方法の一つが、ケアプランデータ連携システムに加入し、実際に使った実績を報告することです(令和8年度の特例要件)。もう一つの方法として、キャリアパスや職場環境の要件を満たす道もあります。ですが、職場環境の要件の中にも、ICTの活用など生産性の向上に関する取り組みが含まれています。

これまで処遇改善加算の対象だったサービスでも、令和8年度から、生産性の向上や協働化に取り組む事業所に、上乗せの加算区分ができました。

私の見立て

IT化をしないからといって、すぐに事業所が立ち行かなくなるわけではありません。

ですが、IT化に取り組む事業所が評価される流れは、これからも強まっていくはずです。取り組まなければ、職員の給料や事業所の経営で、少しずつ差がついていく。私はそう考えています。

IT化は、漏えいを減らす面もあります。FAXの番号の押し間違いは、データでのやり取りになれば起きません。紙を持ち歩かなければ、置き忘れも車上荒らしもありません。IT化は、漏えいの形を変えるものです。だからこそ、避けるのではなく、安全な使い方を身につけることが大切です。

生産性向上の視点は、管理者にも、職員一人ひとりにも必要

IT化の話になると、「それは管理者や経営者が考えること」と思われがちです。たしかに、システムを入れるかどうかを決めるのは、管理者や経営者です。

生産性向上の視点を持てない管理者や経営者のもとでは、職員は紙とFAXの仕事に追われ続けます。忙しさは漏えいのきっかけにもなり、働きやすさでも、加算でも、他の事業所との差が開いていくかもしれません。

ただ、これからは職員一人ひとりにとっても、大事な視点になると私は考えています。

「現場に入り込む技術者」という考え方

AIの業界では最近、「FDE(フォワード・デプロイド・エンジニア)」という役割が注目されています。技術者が会社の中にこもって仕組みを作るのではなく、お客さんの現場に入り込み、現場の困りごとを聞きながら、AIや仕組みをその場で使える形にしていく人のことです。どんなに優れた技術も、現場の仕事に合わなければ使われない。だからこそ、現場を知る人が必要とされています。

介護に置き換えると、現場を一番知っているのは、私たち職員です。「この転記の作業は、データでつなげば要らないのでは」「この記録は、AIで下書きすれば早くなるのでは」。そうした気づきを持ち、安全な使い方を考えながら試してみる職員が、これからの現場を変えていくのかもしれません。

ITやAIは、もう一部の得意な人だけのものではありません。現場を知り、ITで仕事をよくできる人が、これからの介護の現場で求められていく。私はそう考えています。

ではどうするか|介護ソフトのAI機能を使う

ChatGPTやClaudeのような一般の生成AIは、とても便利です。ですが、入力した情報は外部の会社のサーバーに送られ、使い方や契約の種類によっては、AIの学習に使われることもあります。職員一人ひとりが自分の判断で使うと、事業所としては、利用者の情報がどう扱われているかを管理しきれません。

かといって、AIを使わないという選択肢は、もうありません。

答えの一つは、今使っている介護ソフトのAI機能を使うことです。最近は、記録の下書きや計画書の文案、会議録の要約などを、AIで手伝ってくれる介護ソフトが増えています。介護ソフトのAI機能は、事業所とソフト会社との契約の中で使うものなので、データの扱いを事業所として管理しやすくなります。

導入の前に、ソフト会社に確かめること

・入力した利用者の情報が、AIの学習に使われないか

・データが、どこのサーバーに保存されるか

・医療・介護の情報を扱うための、国のガイドラインに対応しているか

「お金がかかる」と言われたら

AI機能には、たいてい追加の費用がかかります。管理者や経営者から「お金がかかるから」と言われるのは、当然のことです。

だからこそ、なぜそれが必要なのかを、根拠を持って説明する。それが、現場を知る私たち職員の役割だと私は考えています。「便利そうだから」では、上の人は動きません。数字と事実で説明します。

説明の根拠の例

時間:記録や計画書の作成が、1日に何分減るか。それに職員の人数と時給をかけて、1年分の金額にする。AI機能の費用と比べる

漏えいの危険:職員が一般の生成AIに利用者の情報を入れてしまう危険を減らせる。要配慮個人情報は、1件の漏えいでも国への報告と本人への通知が必要になる

報酬:処遇改善加算のように、IT化に取り組む事業所が評価される仕組みが増えている

補助金:介護ソフトやタブレットなどの導入には、都道府県の補助金(介護テクノロジー導入支援事業)が使える場合がある。AI機能が対象になるかは、都道府県の案内で確かめる

こうした説明ができる職員は、どの事業所でも頼りにされます。根拠を持って説明する力を磨いていくこと。それが、これからの介護の現場で、私たち一人ひとりに求められていることではないでしょうか。

では、どう仕事をすればいいのか

難しいことから始める必要はありません。まずは次のことから見直してみてください。

今までの仕事の仕方で

  • FAXは、送る前に番号と宛先、送る枚数を声に出して確かめる。できれば2人で確認する。よく使う番号は、短縮ダイヤルの登録を見直す
  • 訪問に持ち出す書類は、その日に必要な分だけにする。車から離れるときは、鞄を必ず持って出る
  • 書類を渡す・封筒に入れるときは、1枚ずつ利用者の名前を確かめる
  • 電話で家族や関係者を名乗る相手には、折り返すなどして本人確認をしてから話す

AIやITを使うときに

  • 生成AIには、利用者が特定できる情報を入れない。使ってよいサービスと設定は、事業所でルールを決める
  • 私物のスマホやアプリに、利用者の情報を保存しない
  • パソコンや介護ソフト、メールのパスワードを使い回さない。2段階認証が使えるものは設定する
  • メールやSMSのリンクから、介護ソフトや請求のシステムにログインしない

もし漏らしてしまったら

一番大切なのは、隠さず、すぐに管理者に報告することです。要配慮個人情報の漏えいは、国への報告や本人への通知が必要になります。報告が遅れるほど、利用者や家族の被害も、事業所の信頼の損失も大きくなります。管理者は、報告した職員を責めるのではなく、仕組みで防ぐ方法を一緒に考えることが大切です。

私たち自身の個人情報の守り方については、個人情報の漏えいは、これからも増える|まずやる3つのことでまとめています。

まとめ

  • ケアマネが扱う情報の多くは「要配慮個人情報」。1件の漏えいでも、国への報告と本人への通知が必要になる
  • 今までの仕事の仕方では、FAX、紙、渡し間違い、電話での本人確認不足から漏えいが起きる
  • AIを使うことで、入力した情報や録音、私物のスマホから、新しい形の漏えいが起きる
  • IT化は国の方針。処遇改善加算のように、IT化に取り組む事業所が評価される仕組みが増えている
  • IT化は漏えいの形を変えるもの。避けるのではなく、安全な使い方を身につける
  • 生産性向上の視点は、管理者だけでなく職員一人ひとりにも必要。現場を知り、ITで仕事をよくできる人が求められていく
  • AIを使わない選択肢はない。介護ソフトのAI機能を使い、なぜ必要かを根拠を持って説明する力を磨く
  • 漏らしてしまったら、隠さずすぐに報告する

利用者は、私たちを信頼して、人には話しにくいことまで話してくれています。その信頼に応えることも、ケアマネの大切な仕事の一つです。

※本記事は2026年10月時点の情報をもとにしています。処遇改善加算の要件は厚生労働省「令和8年度介護報酬改定」の資料によります。算定の詳細は、指定権者(都道府県・市町村)の案内をご確認ください。

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