ケアマネジャーをしていると、こんな場面に出会います。ご家族が熱心で、悪意はまったくない。でも、その熱心さがご本人には少し重い——。
責める相手がいないぶん、この状況はとても難しい。今回は、GROWモデルをケアマネの面談でどう使うか、そしてご本人とご家族の思いがすれ違うときにどう向き合うかを考えます。
まず前提:サービス利用は「目標」ではない
ケアプランを作っていると、つい目標欄がこうなりがちです。「デイサービスに週2回通う」。
でも、これは手段であって目標ではありません。GROWモデルでいうG(Goal)は、「どんな暮らしがしたいか」のはずです。
- × デイサービスに週2回通う
- ○ お風呂に安心して入れる状態を保ち、家での生活を続ける
サービスから発想すると、本人の望みが見えなくなります。暮らしから発想して、あとから制度を当てはめる。順番を逆にしないことが大切です。
ある場面——熱心なご主人と、デイを楽しむ奥様
たとえば、こんなケースを考えてみます。
認知症のある奥様が、隔週でデイサービスに通っています。以前は精神的な不調もあり、ほとんど外に出られない生活でした。それが今は、拒否なく、楽しそうに通えている。
ご主人はご自身が体を動かすことを大切にされている方で、奥様にも「もっと運動してほしい」と熱心にすすめています。ただ、その内容はご主人の基準で、奥様の体力からするとやや負荷が高い気がします。
ここで大事なのは、ご主人がしていることは、決して悪いことではないということです。運動が体にいいのは事実ですし、奥様を思う気持ちから出ている行動です。何が一番正しいかを、私たちが断言できるわけでもありません。
ただ、見えている事実はあります。
- 以前はほとんど外出できなかった方が、拒否なく、楽しそうに通えている
- 自宅での入浴が難しい日もある
この状況なら、デイの回数を週1〜2回に増やしてみるという選択肢は十分に検討に値します。入浴の確保にもなり、本人が嫌がっていないなら無理もない。私はそう考えます。
では、それをご主人にどう伝えるか。ここで「そのやり方は負担が大きいですよ」と正面から言うと、たいてい心を閉ざされます。
責めずに導く——GROWの使い方
① ご主人のGoalを、聞き直す
まず、行動ではなくその先にある願いを確認します。
「奥様に、これからどんなふうに過ごしてほしいと思っていらっしゃいますか?」
返ってくる答えは、たいてい「元気でいてほしい」「長く一緒にいたい」です。
つまり、運動をすすめることは手段であって、目標ではない。目標のレベルでは、私たちとご家族は最初から一致しているのです。ここを確認できると、対話の空気が変わります。
② 事実を、そっと渡す(Reality)
次に、ご主人が見えていないかもしれない事実を伝えます。比較や評価をせず、起きていることだけを。
「以前は外に出ることも難しかったですよね。今は、ご自身から支度をされる日もあるそうです」
「デイでは笑顔で過ごされていると、スタッフから聞いています」
「それは大きな変化ですよ」——この一言を添えられるのは、経過を知っている専門職だけです。ご家族は毎日一緒にいるからこそ、変化に気づきにくいものです。
③ 選択肢を、一緒に広げる(Options)
こちらの結論を出す前に、いくつか並べます。
- デイの回数を増やしてみる(入浴の確保にもなる)
- デイの中で、体を動かすプログラムを増やしてもらう
- ご主人と一緒に、短い距離の散歩から始める
- 今の形をしばらく続けて、様子を見る
「どれがいいと思われますか」と委ねる。決めるのはご家族と本人です。
④ 小さく始めて、振り返る(Will)
いきなり大きく変えないこと。「まず1か月、週1回にしてみて、様子を見ませんか」——小さく始めて、次に振り返る約束をする。これがGROWのWです。
そして何より伝えたいのは、「長い目で見てください」ということ。認知症のある方の生活は、短期間で結果が出るものではありません。今の”楽しく通えている”という状態自体が、すでに大きな成果なのです。
本人と家族の希望が違うときの考え方
もっと難しいのは、本人と家族の希望が正面からぶつかるときです。本人は「家にいたい」、家族は「施設に入ってほしい」。
このとき有効なのが、それぞれの「なぜ」を別々に聞くことです。
- 本人「家にいたい」→ なぜ? →自分のペースで暮らしたいから
- 家族「施設に入ってほしい」→ なぜ? →転倒が心配で、仕事中も気が気でないから
対立しているのは手段です。目的のレベルでは——「本人が安全に、その人らしく暮らせること」——ほぼ一致しています。
そこが見えると、第三の道が出てきます。見守り機器を入れる、デイを増やす、緊急通報を設置する、住宅改修をする。「家か施設か」の二択から抜け出せるのです。
いちばん大事なこと——こちらの正しさを、押し通さない
ここまで「どう導くか」を書いてきましたが、最後にいちばん大切なことをお伝えします。
ケアマネの意見が正しいとしても、それを押し通してはいけないということです。
私たちは専門職として、経過を見て、他のケースも知っています。だから「こうした方がいい」という見立てが立ちます。でもその見立ては、あくまで専門職の視点から見た正しさにすぎません。
ご家族には、ご家族の歴史があります。何十年も連れ添ってきた関係、これまでの介護の積み重ね、譲れない思い。私たちが関わっているのは、その長い時間のほんの一部分です。
正論を並べて「その方がいいですよ」と繰り返せば、たしかに一時的には従ってもらえるかもしれません。でも、納得のないまま動いた支援は続きません。そして何より、そのご家族は次から本音を話してくれなくなります。
- 成果を急がない——今日決まらなくていい。次の訪問でもいい。
- 相手のペースに合わせる——考える時間が必要な人もいれば、まず気持ちを整理したい人もいる。
- 「今はまだ」を受け入れる——断られたのは提案であって、こちらの存在ではない。
- 種をまいておく——「こういう方法もありますよ」と伝えておけば、必要になったとき思い出してもらえる。
現場の肌感覚として、ご家族が自分で「そろそろかな」と思ったときが、いちばん動くタイミングです。そのときに相談してもらえる関係を保っておくことのほうが、今日ひとつ提案を通すことよりずっと価値があります。
GROWモデルは、相手を思うように動かすための技術ではありません。相手が自分で決めるのを、待つための型です。焦って結論に導こうとした瞬間、それはもうコーチングではなくなります。
GROWが使えない場面もある
正直に書いておきます。ケアマネの現場では、GROWがそのまま使えない場面が確実にあります。
- 認知症が進み、意思の確認が難しいとき:質問を重ねるより、これまでの生き方や大切にしてきたことから推し量る必要があります。
- 緊急時・急変時:「どうしたいですか」と問い続けている場合ではありません。まず情報提供と具体的な支援を。
- 制度や身体状況で、望みがそのまま叶えられないとき:「できません」で終わらせず、望みの”核”は何かを聞き直す。「旅行に行きたい」の核が「家族と時間を過ごしたい」なら、別の形が見つかるかもしれません。
だからこそ、元気なうちに希望を語り合っておくこと——ACP(人生会議)の考え方が大切になります。
まとめ
- サービス利用は目標ではない。「どんな暮らしがしたいか」から発想し、制度はあとから当てはめる。
- 熱心なご家族を否定しない。行動ではなく、その先にある願い(Goal)を聞き直す。
- ご家族が見えていない変化を、評価せず事実として伝える。それができるのは経過を知る専門職だけ。
- こちらの結論を出す前に、選択肢を並べて委ねる。小さく始めて、振り返る約束をする。
- 本人と家族が対立したら、それぞれの「なぜ」を聞く。手段は違っても、目的は一致していることが多い。
- こちらの正しさを押し通さない。成果を急がず、ご家族のペースに合わせる。納得のない支援は続かない。
- 認知症・緊急時など、GROWが使えない場面もある。型は地図であって、鎖ではない。
※本記事は一般的な情報提供です。個別の支援方針については、担当のケアマネジャーや専門職にご相談ください。事例は複数の状況をもとに再構成したもので、特定の個人を指すものではありません。
正しさを伝えるだけでは、人は動きません。相手の願いに寄り添いながら、事実を手渡していく。それがケアマネの仕事なのだと思います。あなた自身が、あなたの人生を一番素敵にできる人です。


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