高齢者施設から見る予防医療(血圧編)——薬と上手に付き合うために知っておきたいこと

介護の知識

あなたは自分が飲んでいる薬が、何のために処方されているか、きちんと説明できますか?

現場で働いていると、この問いに自信を持って答えられる方が、実はとても少ないと感じています。「お医者さんに言われたから」「ずっと飲んでいるから」——そういった理由で服薬を続けている方が、高齢者の中には多くいらっしゃいます。

今回は、血圧を入口にして、薬との付き合い方・自分の体の管理について考えてみたいと思います。

現場で感じるリアル——「先生に言われたから飲んでいます」

私が働く施設では、降圧剤(血圧を下げる薬)を飲んでいる利用者さんが多くおられます。高血圧は高齢者にとって非常に多い疾患のひとつですから、それ自体はおかしなことではありません。

ただ、ケアマネとして利用者さんと話していると、あることが気になります。「なぜその薬を飲んでいるのか」を自分の言葉で説明できる方が、驚くほど少ないのです。

以前、ある医師からこんな言葉を聞きました。

「高齢者の血圧が高いのは、当然のことなんです。」

そして、別の場で聞いたこんな言葉も。

「飲む薬の量が増えるにつれて、転倒のリスクも増えていきます。」

この二つの言葉は、今でも私の中に強く残っています。高齢者の血圧が高くなるのには、体の老化というれっきとした理由があります。そして、その血圧を下げようとする薬などが、別のリスクを生んでいる現実もある。この複雑さを、まず知っておいてほしいのです。

なぜ歳をとると血圧が上がるのか

高齢者の血圧が高くなる理由は、主に4つあります。

① 動脈硬化(血管の弾力性の低下)

これが最大の原因です。年齢とともに血管壁にコラーゲンやカルシウムが蓄積し、血管が硬くなっていきます。硬くなった血管は伸び縮みしにくいため、心臓がより強い力で血液を送り出す必要が生まれます。その結果、上の血圧(収縮期血圧)が上がります。

② ホルモンバランスの変化

血圧を調整するホルモン「アンジオテンシンII」(血管を収縮させる働きがある)の作用が加齢で変化し、血管が収縮しやすくなります。

③ 自律神経の衰え

血圧は自律神経が「朝は上げる・夜は下げる」というリズムで調整しています。加齢でこの機能が低下すると、夜中も血圧が下がらなかったり、朝に急激に上昇したりする「早朝高血圧」が起きやすくなります。

④ 塩分への感受性が上がる

腎機能の低下により、塩分を体外に排出する力が弱まります。同じ食生活をしていても、若いころより血圧が上がりやすくなっていくのはこのためです。

つまり、高齢者の血圧が高いのは「不健康だから」だけではなく、体の構造が変化していくこと自体が原因でもあるのです。

多剤服用と転倒リスク——血圧薬だけの問題ではない

高血圧と診断されると、降圧剤が処方されます。ところが高齢者の場合、高血圧だけでなく、糖尿病・心疾患・骨粗しょう症・不眠など、複数の疾患を抱えているケースがほとんどです。その結果、1日に5種類・10種類と薬を飲み続ける「多剤服用」の状態になりやすくなります。

問題は、薬の種類が増えるほど、副作用や薬同士の相互作用が起きやすくなることです。降圧剤で血圧が下がりすぎて立ちくらみが起きる、睡眠薬の影響で夜中にふらつく——こうした状態が重なると、転倒リスクが大きく跳ね上がります。

厚生労働省も「ポリファーマシー(多剤服用による害)」として注意を呼びかけており、6種類以上の服薬で転倒リスクが有意に上昇するというデータもあります。自身の病気の中で治療する優先順位をつける必要があると思われます。

血圧を管理するために薬を飲む、それらの薬が転倒を招く——この連鎖を断ち切るために大切なのが、定期的な薬の見直しです。医師はなかなか自分から「減らしましょう」とは言い出しにくいものです。処方された薬に疑問を感じたら、受診時に「今の薬、整理できますか?」と自分から切り出すことをためらわないでください。

2025年版ガイドラインで変わったこと——全年齢で130/80未満へ

日本高血圧学会は2025年に新しいガイドライン(JSH2025)を発表しました。大きな変更点は、降圧目標が全年齢で統一されたことです。

対象診察室血圧家庭血圧
75歳未満130/80 mmHg未満125/75 mmHg未満
75歳以上130/80 mmHg未満125/75 mmHg未満

以前は75歳以上の目標は「150/90未満」と緩やかに設定されていました。しかし大規模な研究により、高齢者でも130/80を目指した方が脳卒中や心筋梗塞のリスクが下がることが示され、基準が統一されました。

ただし、これはあくまでも「目指す方向」の話です。立ちくらみやめまいが頻繁にある方、フレイル(虚弱)の方、頸動脈に狭窄がある方などは、主治医と相談しながら個別に目標を調整します。数字だけを追いかけて、体に無理をさせる必要はありません。

高血圧を防ぐために——食事と運動でできること

薬の前に、あるいは薬と並行して、生活習慣の改善で血圧をコントロールできる余地は十分にあります。実際、生活習慣の見直しによって減薬・断薬できた方も少なくありません。

【食事】減塩が最も効果的

日本人の食塩摂取量は世界的に見ても多く、高血圧との関係が深いとされています。目標は1日6g未満(日本高血圧学会推奨)。味噌汁を1杯減らす、漬物を控える、醤油はかけずにつけるだけにする——小さな積み重ねが血圧に影響します。また、野菜・果物に含まれるカリウムには塩分を排出する作用があり、積極的に摂ることが勧められています。

【運動】無理のない有酸素運動を習慣に

ウォーキングや軽い体操などの有酸素運動は、血管の柔軟性を保ち、血圧を穏やかに下げる効果があります。目安は1日30分・週5日程度ですが、最初から頑張りすぎる必要はありません。デイサービスのクラブ活動や趣味の外出など、「楽しみながら体を動かす」ことが長続きのコツです。

【プロテイン】ウォーキングの成果を最大限に活かす

いつまでも元気でいるために、運動と合わせてぜひ取り入れてほしいのがたんぱく質(プロテイン)の補給です。ウォーキングなどの運動は筋肉に刺激を与えますが、たんぱく質が不足していると筋肉の修復・合成がうまく進みません。せっかく体を動かしても、材料がなければ筋肉は育たないのです。

高齢になると食事量が減り、たんぱく質が不足しがちになります。肉・魚・卵・大豆製品などを意識して摂ることが基本ですが、食が細くなっている方にはプロテインを活用するのもひとつの方法です。毎日のウォーキングの効果を最大限に発揮するためにも、運動と栄養はセットで考えてみてください。

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施設・病院が転倒を何より恐れる理由

高齢者施設や病院は、転倒・骨折を何よりも恐れています。転倒して骨折が起きると、本人の回復に時間がかかるだけでなく、施設・病院の運営にも大きな影響が出ます。そのため、活動性の高い方に対して、薬で落ち着かせようとする場面が現実として存在します。

ただ、これには深刻な問題があります。薬で落ち着いた状態が続くと、身体機能が低下し、在宅復帰した後にかえって転倒しやすくなるというジレンマが生まれるのです。

施設や病院が悪いわけではありません。「薬を飲ませたくないなら、ご家族が24時間見守ってください」というのが、施設・病院側の正直な立場です。私たちが施設や病院に求めていることが、現実的にどういうことを意味するのか——そこに気づいてほしいと思うのです。

まとめ——血圧と薬を「自分ごと」にする

  • 服薬の目的を自分で理解する——何のために飲んでいるかを知ることが出発点
  • 1日の血圧の流れを把握する——朝・昼・夕と測定を続けると、自分のパターンが見えてくる
  • 自分にとって「調子のいい血圧」を知る——体調が良い日の数値を把握しておくと、医師との相談がしやすくなる
  • 食事(減塩・野菜)と運動(有酸素運動)を日常に取り入れる——薬に頼らない土台をつくる
  • 多剤服用は定期的に見直す——薬の種類が増えるほど転倒リスクも上がる。自分から医師に「整理できますか?」と相談する
  • 定期受診でデータを持って医師と話す——記録した血圧手帳を持参すると会話がスムーズになる

血圧の管理は、医師に任せきりにするのではなく、自分の体を知ることから始まります。加齢とともに体は変わります。だからこそ、定期的に自分の状態を確認し、薬と上手に付き合っていく姿勢が大切です。

※本記事は個人の考えと現場経験に基づく情報提供です。血圧の管理や服薬に関しては、必ず主治医・薬剤師にご相談ください。

あなた自身が、あなたの人生を一番素敵にできる人です。

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