高齢者の多剤処方と入院・転倒リスクについて考える


はじめに

高齢者医療の現場では、多剤処方(ポリファーマシー)が大きな課題となっています。『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』でも示されているように、6種類以上の薬を服用することで、薬物有害事象(入院)や転倒の発生が増加することが明らかになっています。

本記事では、薬が増えることで起こる負の連鎖と、それが高齢者の生活や生命にどのような影響を及ぼすのかを整理してみたいと思います。


多剤処方(ポリファーマシー)とは

多剤処方(ポリファーマシー)とは、多くのくすりを服用していることにより、

  • 副作用が生じる
  • 正しく服薬できなくなる

といった不利益が生じている状態を指します。単に「薬の数が多い」ことそのものを意味する言葉ではありません。


薬が増えることで何が起きるのか

ポリファーマシーの状態では、くすりの副作用が起こりやすくなります。特に高齢になるほど注意が必要です。

高齢者では、体内でくすりを分解・排泄する力が低下するため、くすりが効きすぎてしまうことがあります。その結果、次のような症状がみられます。

  • ふらつき
  • 転倒
  • 物忘れ
  • 食欲低下

① 入院リスクの増加

副作用や体調悪化により、救急受診や入院につながるケースが増えます。薬が原因であるにもかかわらず気づかれず、さらに薬が追加されてしまうことも少なくありません。

② 転倒リスクの上昇

ふらつきや注意力の低下により、転倒の危険性が高まります。高齢者にとって転倒は骨折につながる重大な出来事であり、その後の生活を大きく変えてしまう契機となります。

③ 入院による筋肉喪失という現実

高齢者は10日間入院するだけで、約7年分の老化に相当する骨格筋を失うとも言われています。

  • ベッド上での生活
  • 活動量の低下
  • 食事量の低下

これらが重なり、退院時には「入院前の生活に戻れない」ケースも少なくありません。


負の連鎖

多剤処方は、次のような負の連鎖を生み出します。

  1. 薬が増える
  2. 副作用・ふらつきが出る
  3. 転倒・体調悪化
  4. 入院
  5. 筋肉量低下
  6. さらに転倒しやすくなる
  7. 骨折・長期入院

この循環に一度入ってしまうと、生活機能の回復は非常に困難になります。


高齢者にとって「入院・転倒・骨折」は何を意味するのか

高齢者にとって、

  • 入院
  • 転倒
  • 骨折

は、単なる出来事ではなく、生命予後に直結する重大な転機となり得ます。

「薬を飲んでいるから安心」ではなく、その薬が本当に今の生活を守っているのかを考えることが大切です。


支援者・家族・医療者にできること

  • 定期的に服薬内容を見直す
  • 「やめられる薬はないか」を医師や薬剤師に相談する
  • 症状だけでなく、生活全体を見た治療を考える
  • 本人の価値観(何を大切に生きたいか)を共有する

減薬は「治療をやめること」ではなく、その人らしい生活を守るための医療です。


おわりに 〜人生会議(ACP)という視点〜

高齢者にとって、薬は必要不可欠な一方で、増えすぎれば命を脅かす要因にもなります。

薬の数を疑うことは、医療を否定することではありません。安全に、穏やかに、その人らしく生きるための第一歩です。

近年は「人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)」が推奨されています。これは、将来の医療や介護について、本人の思いを家族や支援者と共有しておく取り組みです。

薬のこと、治療のこと、そして「どのように生きたいか」について、家族や親戚で話し合う機会をぜひ作ってみてください。この視点が、誰かの転倒や入院を防ぐきっかけになれば幸いです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました